2014.12.15 (mon)
1回裏:中村八大「太陽と土と水を」
僕がこの曲を知ったのはFM COCOLOで毎週月曜日午後9時から放送している『田家秀樹 J-POP LEGEND FORUM』という番組だった。この番組は1ヵ月ごとに特集を組んでは音楽評論家・田家秀樹さんが日本の音楽の礎となったアーティストにスポットを当て、本人もしくはそのアーティストに関わった関係者をゲストに迎え、当時のことを色々聞いていくという趣旨の番組だ。僕が初めて聞いたとき、「太陽と土と水を」の作者である中村八大の特集であった。
「太陽と土と水を」以外にも数々の名曲を生み出した昭和を代表する希代の作曲家、中村八大の作品は山のようにある。「上を向いて歩こう」「夢で逢いましょう」「世界の国からこんにちは」「こんにちは赤ちゃん」「笑点のテーマ」など、数えればきりがないくらいだ。番組中、たしかにそういった昭和を代表する名曲も紹介していたが、この「太陽と土と水を」を聞いた瞬間、僕の心を鷲掴みにして離さなかった。
その日ゲストに迎えられていた八大氏の御子息である中村力丸氏がこの曲や八大氏ついての様々なエピソードを語っていた。八大氏は早稲田大学在学中にジョージ川口、松本英彦、小野満と共にジャズ・バンド「ビッグ・フォー」を結成。日本におけるジャズ・ブームの中、絶大な人気を得て、ジャズ・ピアニストとしての大成を成す。その後作曲家に転身した八大氏は、独自のジャズセンスと日本歌謡のエッセンスを巧みに融合させた今までにない作品を次々と発表した。
1959年「黒い花びら」(作詞:永六輔 歌:水原弘)で第1回日本レコード大賞受賞を皮切りに、永六輔と共に数々のヒット曲を世に送る。なかでも1961年に発表した「上を向いて歩こう」は、1963年にアメリカのキャピトル・レコードから発売され、日本人初となる全米ビルボード・チャートで3週連続1位を獲得。いまだこの記録は日本人作曲家では八大氏しか達成していない。さらに1970年には日本における高度成長期の象徴的一大イベント『大阪万国博覧会』のテーマ・ソング「世界の国からこんにちは」を手掛けた。もはや日本の音楽界、歌謡界に於ける八大氏の地位は不動の物となっており、国民的な作曲家として十二分に認められた存在となっていた。
そんな折しも頂点を極めし頃、八大氏は思い悩んでいたと力丸氏は言う。自分の音楽は果たしてこれでいいのだろうか?ひょっとすると自分の名誉や保身の為に音楽をやってきたのではなかろうか?だれが為の音楽か?八大氏は音楽に対する色々な葛藤を抱えていた。休養中に訪れたネパールで、八大氏はその疑問と向き合いながら現地の人々と触れ合うなか、この「太陽と土と水を」という曲のヒントを得た。八大氏は滞在中ほとんど裸足で生活していて、自給自足の日々を送っていたらしい。そして現地の歌い継がれている様々な歌を肌で感じた八大氏はこの曲を書き上げた。力丸氏によれば、生前の八大氏がこんなことを言っていたという。
「富める者、貧しい者も関係なく人それぞれ自分の中に歌がある」
八大氏の持論でこうも言っていたという。
「この世に音痴な人はいない」
この言葉を察するに、僕は音階がどうこう、音楽の知識がどうこう、レコードのコレクトがどうのこうの言う次元のことを言っていると思わない。どんなに歌が下手で音痴だろうと、ヒット曲や名曲を知らずともその人が口ずさんだ歌や口笛は紛れもない歌であり音楽である。八大氏はそう言っているに違いない。
「太陽と土と水を」は八大氏自らも歌っている。最後の方に歌詞を載せているのだが、八大氏の当時の思いがストレートに表現されている。人間が必要とする最低限であって最高なものとは?八大氏が目指した音楽は商業的な、まして自分の為の音楽ではなく、「文化」を作ろうとしたと思う。たとえレコードやCDが無くても、心の中で聞こえてくる歌、デジタル機器を使わずとも後世に歌い継がれる歌。
だれが為の音楽。
八大氏が身をもって体現した偉大な功績は朽ちることはないでしょう。
最後に八大氏自らが歌っている「太陽と土と水を」の音源を掲載しているので、是非聞いてみて下さい。歌声が素朴でなんとも味わい深く、オーケストレーションも八大氏らしく、とてもダイナミックです。
「太陽と土と水を」
作詞・作曲:中村八大(1971年作)
人様は 力があれば幸福が
つかまえられると 考えた
力をたくわえた
人様は 力があれば幸福を
つかまえられると やってみた
力は 消え失せた
力は 知恵に負けた
力は 消えた
力は 知恵に負けた
力は 消えた
人様は お金があれば幸福が
つかまえられると 考えた
お金をたくわえた
人様は お金があれば幸せを
つかまえられると やってみた
お金は 消え失せた
お金は 知恵に負けた
お金は 消えた
お金は 知恵に負けた
お金は 消えた
人様は 知恵があれば幸福を
つかまえられると 考える
知恵を働かす
人様は 知恵があれば幸福を
つかまえられると やってみる
知恵は ただひとつ
太陽と 土と 水を
この手で さがそう
太陽と 土と 水を
この手で さがそう
太陽と 土と 水を
この手に もとう
太陽と 土と 水を
この手に もとう