2015.4.22 (wed)

 

4回裏:蒼天の春一番



乾いた街に 風が吹きはじめた

冷たい通りを抜けて 君の窓まで

いつまでもまつ事はない

まぼろし達をおいはらえ

春一番がつくるのは

それは君の春の祭


春一番の風は 春一番の風は

ヤスガーズ・ファームへ君を

連れていくのだろうか


―西岡恭蔵「春一番」


 

1996年3月、ソウル・フラワー・ユニオンのライヴを見に神戸チキンジョージを訪れた僕は、会場内に貼ってあった「春一番スタッフ募集」のフライヤーを目にする。そのフライヤーを見た瞬間、強烈な磁場を感じずにいられなかった。衝動的に「これだ!」と思った。何が「これだ!」と思ったのか、今もわからないが当時20歳の僕が「これだ!」と思ったんだから致し方ありません。とにかく「これだ!」と思ったんです。


その当時からいろんな書籍、雑誌で「春一番コンサート」の存在は知っていました。1970年代、毎年5月のゴールデン・ウィークに天王寺野外音楽堂で開催された、名だたる歌い手が出演、好演した野外コンサート。1979年に一旦幕を下ろした伝説的野外コンサートが1995年に16年の時を経て復活。そして復活2回目を迎える1996年の「春 一番コンサート」にあのフライヤーの磁場に引き寄せられるが如く、僕はスタッフとして参加することを決めました。

 

 

後日バナナホールそばにある春一番事務所へ面接を受けに行くと、事務所内には数名のスタッフと福岡風太氏、ベーカー土居氏がおられた。事務所内のテレビでは吉本新喜劇が放送中で、風太氏とベーカー氏が故平参平氏のギャグ「このほうが歩きやすいわ」について議論を交わしていた。風太氏曰く「ここ最近の倫理観はおかしい。亡くなった参平さんがあのギャグ出来へんようなって今の新喜劇が面白んなくなったんや」と吐き捨てた。


平参平氏の「このほうが歩きやすいわ」のギャグを説明をすると、何かの拍子に足の自由が利かなくなった参平氏がしばらくヒョコヒョコと歩いたあと「このほうが歩きやすいわ」と言い、いきなりサッサと歩きだすというギャグである。僕も子供の頃慣れ親しんだギャグであったが、足の不自由な人に対しての侮蔑であるとクレームがあったとされ、晩年の参平氏はこのギャグを封印せざるを得なくなった。


「ちびくろサンボもそうや。君、ちびくろサンボ知ってるやろ」


と面接待ちの僕に風太氏が問いかけてきた。


「あれもそうや。黒人に対して差別的な作品やいうて絶版になったらしいやないか。あれの何処が差別的なんや。このままやったら表現の自由もない、何も言えん社会なってしまう!君もここ最近の閉塞感を感じてここに来たんやろ?」


圧倒された僕は「はぁ、はい」と答えるのに精一杯だった。今こうやって振り返ると「春一番コンサート」の本質をついた福岡風太氏らしい言葉だったと思う。えらく熱量を帯びた面接は終わり、なんだかんだこんな僕をスタッフの一員に迎え入れてくれたことを感謝しつつ家路へとつく。

 

5月「春一番コンサート」初日の朝、ステージ上のテント内で目が覚める。前日泊まり込みの設営で少しばかり体が疲れていると思っていたが、心身共に快調。今日から本番が始まる。ステージ付きのスタッフになった僕はアンプの設置や出演者の機材搬入の手伝いをすることになった。3日間様々なアーティストが圧巻のステージを披露する。ライヴ中のステージを何かに取り憑かれたかのように目を丸くしながら見入っていると風太氏が「どや、これが春一や」と目を細めた。


既存メディアでは聞いたり見ることができない、今まで感じることがなかった自由で豊かな表現がそこには溢れていた。友部正人氏の歌詞の世界やAZUMI氏の魂の咆哮の歌が僕の琴線を掻き毟った。3日間いろんな出演者が容赦なく与えてくれた衝撃は今も僕の財産である。その衝撃は「表現を怖がるな」と今でも僕の背中を押してくれる。スタッフとして参加できたのは、今思うと必然だったんだろうか。理由は極私的で陳腐であったが、どういう形であれスタッフで参加できたのは感謝してやまない。


この場を借りて感謝申し上げます。

本当にありがとうございました。

 

それから6年が経った2002年5月。


復活してから8回目となる「春一番2002」のステージ脇。本番前あまりの緊張で周章狼狽する僕がいた。今日ラリーパパ&カーネギーママのギタリストとして出演することになった。まさか、まさかの出演である。本当に夢にも思わなかった。


「おっ!緊張しとるなガンホ」と今は亡き阿部登氏が声をかけてくださった。


阿部氏は風太氏と共にこの「春一番コンサート」を主だって企画・運営した、なくてはならない存在である。2010年に亡くなるまでプロデュース、マネージメントを務めた。僕もいろんな飲み屋で親しくしてもらい、バンドの相談事も快く引き受けてくれたことは今でも僕含め各メンバー共に感謝しても尽くしきれない。そんな阿部氏から一言もらった僕は幾分か緊張が解れ本番を迎える。あの時の服部緑地野外音楽堂ステージから見た蒼天は今も忘れることができないくらい瞼に焼きついている。

 

 

今年2015年の「春一番コンサート」は通算30回目を迎える。ラリーパパ&カーネギーママで出演した2005年以来10年振りの出演が決まった。気骨ある歌を歌う今では大阪の歌い手の急先鋒である良元優作くんのバンド(Ba:水田十夢、Dr:仲井信太郎、Pf:スチョリ)でギターを弾くことになった。バンドでピアノを弾くスチョリも10年振りの出演になる。気心知れた仲間とこうして出演できることが嬉しい。


あとはあの13年前にステージ上で見た蒼天が僕らを迎えてくれたら言う事無しです!

 

 

 

Drums : 仲井信太郎  Vocal & Guitar : 良元優作  Bass : 水田十夢

Guitar : キム・ガンホ  Piano : スチョリ



祝春一番2015

http://haruichiban.sakura.ne.jp/


日時:201553(), 4(), 5(), 6()

場所:大阪 服部緑地野外音楽堂

時間:OPENSTART 11:00(雨天決行・荒天中止)

料金:前売3500円/当日4100円(4日通し券12000円)

   小学生以下は無料、全席自由


※良元優作バンドの出演は初日5月3日(日)。各日出演者の詳細などは公式サイトをご覧ください。



ラリーパパ&カーネギーママが初出演を果たした2002年の「春一番」出演者一覧

※春一番公式サイトより(ポスター版画:森英二郎氏)

 

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