2015.9.5 (sat)
7回表:横浜マシンガン打線 〜中華街放浪記〜
(えへへ…あれ?ちゃうわ。うふふ…いやいや。なはは…でもないな。ムフフ…やったっけ?)
坂田利夫師匠のギャグ「あんたバカねオホホ~」の「オホホ~」の部分がどうしても思い出せないでいた。
(あっ!…オホホ~やん)
数分間脳内で問答を繰り返した甲斐あって、やっとのことで思い出せたのだった。しかし今から横浜中華街に行くというのに、何故それを今思い出さねばならぬ。おいらが生粋の関西人だからか?それとも、たかが半日滞在くらいでもう郷愁の念に駆られ早々と大阪に帰りたい気持ちがそうさせているのか?
いやいや、いうてもまだ帰りたないしな。
うむ、しかしである。
横浜で坂田師匠の「あんたバカねオホホ~」を思念するとはなんとも妙な気持ちにさせてくれる。大阪で頻繁に耳目に触れる坂田師匠のギャグを大阪環状線外回りで思い出しても、なんら特別な感情は抱かない。やはり横浜だからなのか…。関東の人たちもそんなことを日光東照宮なり箱根あたりで、関東人ゆえに小松政夫氏のギャグ「ニントスハッカッカッ!ヒジリキホッキョッキョ!」を熟考するのだろうか。
「ニントスハッカッカッ?ニントス…?ハッカッカッ…?あのスースーするハッカのことか?てことはニントスはミントのこと?いやいや、じゃあ最後の”ス”はなんだ?ヒジリキ…海藻の鹿尾菜のことか?鹿尾菜は北極圏周辺でよく取れそうな感じだからホッキョッキョ?」などと推察するのだろうか。
お豆「ガンホくん、もうすぐ着きますよ」
ガンホ「あ…ああ」
本当にくだらない、どうでもいいことを思案していたせいか、気の抜けた心許ない返事をしてしまった。
横浜高速鉄道みなとみらい線・元町中華街駅の長いコンコースを歩いていると、壁に無数の中華料理店の広告が掲げられていた。その中で目に付いたのは、"食べ放題1980円"なる興味深い価格設定を大々的に打ち出した「皇朝(こうちょう)」という中華料理店の広告掲示板。オレは自然とその広告掲示板の前に足が止まった。
『酒場放浪記』でヤンさんと一緒に名店を渡り歩いて培った、オレの経験、嗅覚がそうさせたのか、広告掲示板に置かれてある冊子を手に取った。
「豆ちゃんここや!ここにしよう!」と我自信ありと言わんばかりに提案した。(本音言うと、なんのこっちゃない安いから靡いただけなんですわ)
元町中華街駅から5分もかからず見えてきたのは、修復で足場が囲ってある養生の網が掛かった「朝陽門」だった。網越しに見える壮麗な色合いと彫刻がなんとも威風堂々、横浜中華街の玄関口にふさわしい貫禄すら感じる。しかし残念、やはり修復中の「朝陽門」はその魅力を半減せざるを得ない状態であった。
とかなんとか言いながらも花より団子、そんなことは御構い無し「皇朝」にそそくさ向かう2人、横濱媽祖廊も適当に写真撮って、はいはいそれでは行きましょうってな感じだから、ろくすっぽ観光らしいことをやらないときた。
ガンホ「あかん、めっちゃ腹減ってきた。昼間にあのライ麦パンのサンド食ってなかったら、オレ、のたれ死んでたかも」
お豆「ほんまですね。アイヤーッ!急ぎましょう!」
少々道に迷いながらも無事に「皇朝」に到着。
すると「皇朝」の店先に身の丈六尺以上の大柄な案内係の男が立っていた。
案内係の男「イラシャイマセ。何名様デショカ?」
お豆「すいません、2名でお願いしたいんですが」
案内係の男「2名様テスネ。ゴ予約サレテマスカ?」
お豆「あっ予約は…すいません、してないんですが…」
案内係の男「フーム…フーン…ウーム…ホー…ンー。ダイチョウブデスヨ!」
2人(…どないやねん!)
無事に入店叶い、2階に案内されテーブルに着くと早速メニューに目を配る。
ガンホ「豆ちゃん、やっぱり一発目は小龍包やで」
なんの躊躇もなくこの店一番人気の小龍包と目に付いた料理諸々をさっそく注文。しばらくして上段に小龍包、中段にエビ蒸し餃子、下段にフカヒレ風味の餃子が入った三段重ねの蒸篭がオレたちのテーブルに置かれた。
蒸篭からもうもうと芳しい湯気が立ち込めている。蒸篭上段の蓋を開けると出来立ての小龍包の湯気がぶわっと広がり、オレたちの顔を撫でた。オレは堪らず箸を伸ばす、が食い意地が張ってるせいか箸先が震え、なかなか小龍包を上手く掴めない。はやる気持ちを抑え、ようやく口へ放り込むと小龍包に内在する風味豊かな肉汁が溢れ出す。
ガンホ「まへひゃん、はふっはふっ、はふっ、めひゃふはへはっ」
(豆ちゃん、めちゃうまやな)
お豆「ほんはへふへっ。ほへはなはなはほうははへはふへはへんへ」
(ほんまですね。これはなかなか大阪では食えませんで)
熱された肉汁が口の中で容赦なく踊る。
ガンホ「いやーほんま美味かった。この小龍包、打順で言うたら1番やで。しかもホームラン打てる1番」
お豆「いや、僕はまぎれもない4番やと思いますけど」
何故か野球で例え出したので、オレの独断と偏見で今日食した点心料理で打順を組んでみた。
1番:小龍包(遊)
2番:エビ蒸し餃子(一)
3番:甜面醤の細切り豚肉サンド(二)
4番:フカヒレ風味の餃子(左)
5番:エビとカニカマ海鮮春巻き(DH)
6番:エビ焼売(三)
7番:レタス入り牛肉黒チャーハン(捕)
8番:春巻き(中)
9番:XO醤風味の餅米焼売(右)
※( )内は守備位置。パリーグ指名打者制で考案。
やはり1番バッターの小龍包のインパクトは絶大で、最初の一口で点心の醍醐味を堪能することができる。野球選手で例えたら、全盛期は1番打者でありながら打率.322、HR34、打点84、OPS.992という4番バッターに相当する成果をあげた、真弓明信阪神前監督が妥当だろう。
2番のエビ蒸し餃子もこれまたエビの繊細な風味、蒸し餃子のモチモチとした食感がたまらない。日本ハム時代に打率.329、HR31、打点104と恐怖の2番バッターと恐れられ、盗塁数も24と俊足も魅せる小笠原道大がしっくりくるのではないか。
3番は甜面醤の細切り豚肉サンド。中華料理に欠かせない甜面醤をふんだんに使った細切り豚肉をふわふわっとした生地に挟んで食べる。食べ応えもあり生地と細切り豚肉が絶妙にマッチング。これまた選手で例えると二塁手でありながら95年に本塁打王、97年に打点王の栄冠に輝いた小久保裕之が……………
お豆「いやー、ほんまに長門さん生き生きしてましたね」
お豆「ガンホくん?」
ガンホ「あ、ああ…」
またしても空想にふけって気の抜けた返事をしてしまった。
いやはやこの空想癖、なんとかならんかな。
今回コラム初の前後編に分けてお届けした横浜道中記如何でしたでしょうか。懐かしい顔ぶれに心踊り、横浜中華街で点心料理を思う存分堪能して、なんだかんだ非常に充実した1日を過ごせました。
さあさあコラムも後半戦に突入。
次はどんなお題が待ち受けているのやら。
乞うご期待。