2015.12.25 (fri)
8回表:福島のダンペン
(写真提供:佐藤宏憲さん)
10月17日、福島県福島市置賜町、午後1時45分。
気だるい土曜の午後、俺と良元優作はとある食堂でホルモンの味噌煮込みをつつきながら今日のライブの項目を算段していた。二人して活気、気力が乏しい。何故なら俺はこの日朝イチで大阪を発ち、午前中に福島県に着いたばかりで前日ほとんど寝ていない状態。優作はというと、昨日の福島県いわき市でのライブですっかり飲み過ぎたのこと。しかもワンマンライブだった。
「あかん、ガンホくん、ごっつしんどいわ」
優作独特の極端に低音部と高音部が響く声で言い、実はそれほど疲れてはいないとばかりに微笑みながら、しかしそこは疲れが隠しきれなかったのか俺から見たら明らかに優作の目は澱んで見えた。
「俺はちょい飲むけど、優作くんどない?」
杓子定規に提案すると、優作はしばらく腕を組んで熟考するも、満更でもない様相で承諾し二人で杯を交わした。胃のあたりからぽわっと暖かい感触を感じてから瞬く間に身体全体に血が廻るのを感じた。お互い顔の血色が先ほどまでとは雲泥の差、生気を取り戻すのである。
なんとも爽快、カンラカラカラ!
気だるい土曜もなんのその。
今や穏やかな秋晴れ。
歩道の樹木から木漏れ日が差しこむ店内のラジオから地方競馬が流れているが、俺にはユーミンの「中央フリーウェイ」にしか聞こえやしない。
「優作くん!このホルモンの煮込みめちゃ美味いな!」
「あっ!ほんまやねぇ」
二人してだんだんテンションがあがってきた。が、この一杯が後々ボディブローの様にじわじわ効いてくるのであった。
『福島クダラナ庄助祭り』は今年で4回目。全国津々浦々から一癖も二癖もあるアーティストが集結する1日限りのライヴ・サーキット。その数50組、ゆうに200人は超えるアーティストが各ステージで熱演、怪演を繰り広げる。
一癖も二癖もあるアーティストは大概みな酒呑みである。あるがゆえに素晴らしい”表現者”であるとニーチェは言ってないにしろ、俺はそう確信する。なので行く先々で顔見知りに出会う確率は非常に高いのである。
どれくらいかと言うと、80年代の夏祭りでアイドルのブロマイドをくじを引いて貰える夜店でだいたい田原俊彦のブロマイドが当たる確率と非常に酷似すると言えよう。なのでやはり行く先々で飲んでしまう。昼間の食堂の一杯も手伝ってだんだん記憶も断片的になる。
カンラカラカラ!断片的になってしまう。
な…でだp…てへっ…ほっ…しまうま。
文章も断片的になってしまった。
断片、ダン・ペン。
そうだ!今回はダン・ペンが歌う「ザ・ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート」を聴きながらこのコラムを読むことをオススメします。文章と絶妙にマッチしないんで是非試してみてください。呆れるほど合いません。
本編に戻ります。
てな具合でライヴは上々だったのだが、終わって各イベント会場でそういう具合で飲んでしまうので、頭の空き容量が足りなくなってくる。本番が終わり、何丁目か先の野外イベント会場でザ・たこさんのギター山口しんじ氏、大阪のガヤミュージシャンであるキチュウが長渕剛の「RUN」を熱唱していた。
いや…キチュウだけが歌っていたのか?今やどうでもいいことだが、やはり記憶が定まらない。ザ・たこさんのボーカル安藤八主博氏は何故かカツラをかぶっている。元吉本芸人の血が騒ぐのか、それなりにおもろいカツラをかぶっていた。しかしその様相とは裏腹に秋の柔らかな夕陽が安藤氏を照らし、特別戯けて見せたり、はっちゃけたりなどせずに、ただその斜陽に身を任すように黄昏ていた。
うーん、結構いいライヴを見てるのに、何故かこの場面だけ強烈に覚えているんですよ。
大阪でよく見る光景なので、その記憶とこの場面が妙にシンクロするせいだと思う。いろんな会場で見たライヴのレビューとか書こうと思ったんですが、本当にすいません。ZABADAKや山川のりを氏のいい感じのライヴを見てるのですが、ザックリとしか覚えていないんですよ。本当に申し訳ない。
とまぁ、なんやかんやありながら全日程が終了し、宿泊先である福島県飯坂町にある温泉旅館「清山」で行われた大宴会でも、そんな具合なのでいろんな方々と会話しているのだが、記憶がかなり曖昧。イベント主催者の一人である、しりあがり寿先生からビールを注いでもらったのは覚えているのだが、何を喋ったのか皆目見当がつかないのである。だが大宴会場は異様なほど盛り上がっていたのは忘れ難い感覚としてしっかり記憶している。後にも先にもこんな打ち上げは初めての経験だった。しかし次の日朝イチで帰阪しなければならない俺は早々に寝床に着いてしまった。
今思えば非常に勿体無い。
しかし思ったのだが、こういったアーティスト主体のライヴ・サーキットは稀有ではないだろうか。ゆえに個性豊かなアーティストが集結するのは合点がいくにしろ、マダムギター長見順女史、岡地曙裕氏、ギターパンダ山川のりを氏、そして前述したしりあがり寿先生の尽力なくしてはなり得ないイベントなのは周知の事実として、ボランティア・スタッフの方々、各会場を提供していただいたBARのマスター、店主の方々及び、会場に来て大いに盛り上がったお客さん一体となってこそのイベントなのは間違いない。
この”奇祭”とも言えるライヴ・イベントに参加できたこと自体、筆者にとって忘れがたい記憶である。本当にフランクなイベントでした。来年、機会があれば皆様も是非会場に足を運んでください。
福島クダラナ庄助祭り オフィシャルサイト