2017.08.19 sat

 

 

**第2章:砂漠の当惑**

 

 

「フーフーフ、フフフンフ~ワルツを歌お~ フーフーフ、フフフンフ~ワルツを歌お~」

 

歯抜けたフレーズが、まるで傷ついたレコードから流れるロンドのように、静寂な車内に繰り返し鳴り響いていた。そしてある種の呪文のように車内に響くリフレインが、マネージャー含めバンドメンバーの神経を著しく衰弱させていく。この鼻歌交じりに歌いワゴンを運転する<アベ>もしくは<アル>と名乗る白人に、なかば無理矢理車を乗っ取られた形でロサンゼルスのリトルトーキョーに向かう事になったバンドメンバーとマネージャー一行はこの状態をどう理解し解決したらいいか、いまだ目処が立たずにいた。

 

無理もない。折しも彼等はライヴツアー中で、博多から東京に向かっていたはずだったのだが、この世の出来事とは思えない不可思議な事態に巻き込まれ、今アメリカ合衆国西部に位置するネバダ州に居るというのだから混乱して収集がつかないのは当然であった。

 

「あ、あの...ア、アベさん?」

 

ガンホが戦々恐々なる趣で<アベ>もしくは<アル>と名乗る男に問いかける。

 

「フーフーフ、ん?さん付けはやめてーな。<アベ>でええよ」

 

男は気さくに返した。

 

「じゃあアッ...」

 

ここでガンホが<アベ>と呼ぶことを躊躇した。

 

ガンホは、バンド共々世話になった伝説の音楽プロデューサー阿部ワタルの事が頭を過ぎり、<アベ>ととても呼び捨てには出来なかったのだ。ほかのバンドメンバー、マネージャーも同意だっただろう。

 

「じゃ、じゃあ、アル」

 

ガンホが再度男に呼びかける。この瞬間、この男の呼び名が<アル>と満場一致で決まったようだ。

 

「ワルツを歌お~、なんですの?」

 

「そ、それやめてくれへんか?」

 

「フフフンフ~なにを?」

 

「いやだから、「星影のワルツ」のその部分だけ歌うのやめてくれへんか?」

 

「え、マサオセンの大ヒット曲でっせ。ワルツを歌お~」

 

「それは知ってる。でもこう立て続けに歌われたら気が滅入ると言うか...」

 

「え、なんで?ええメロディーやん。ワシこの部分大好きですねん!フーフーフー」

 

アルは少しも悪びれる様子がなく、歌をやめる気配がない。

 

「わ、わかった!じゃあせめてフルコーラスで歌ってくれ!」

 

ガンホの譲歩にアルは「あ、フルコーラスは知りません!」と素っ気なく返した。アルが歌をやめた途端、車内に何ともいえない沈黙が漂った。

 

「と、ところでアル、いま何処走ってる?」と沈黙に耐えきれなかったのか、ガンホがほかメンバーも当然疑問に抱いている真っ当な質問をアルに問いかけた。アルは運転席のダッシュボードに地図を半折に広げ「グルームレイクを背に南下してて、そうやな、持ってきた地図によるともう少しでアマルゴーサバレーかな?」と前方と地図を交互に見ながらガンホの質問に答えた。

 

(...グルームレイク?)

 

ガンホはどこかで聞き覚えのあるフレーズに少し首をひねった。

 

「アル、トイレ大丈夫?僕ちょっと、催してきて...あの、みんなも大丈夫?」

 

助手席の十夢が後部座席へ振り返り、目配せをしながら慣れないウィンクをした。

 

(十夢くんナイス!)

 

マネージャーの篤は小さくガッツポーズをした。

 

「ああ、ワシは大丈夫でっせ。ほなそのへん留めるんで、みんな適当に行ってもろてよろしいよ」

 

(よし!)

 

篤はまた小さくガッツポーズをして、しばらくメンバーだけで話し合えることを確信した。メンバー同士目配せをする。アルは車をゆっくり路肩に寄せ、完全に留まったと同時にギアをパーキングに入れサイドブレーキを引いた。

 

「アル、後ろのトランクから薬取りたいんやけど。ごめん、車のキーをいったんこっちで預かるわ。ションベンから戻ったら返す」

 

スチョリが、アルに気取られることがないようにごく自然に振る舞いながら言った。

 

「あれ?こっちで空けへん?確か...」とアルは運転席のトランクオープナーを探しはじめた。

 

「あ、故障でそっちから開けへんねん」

 

スチョリはやや焦りながら言った。

 

「さようでっか。ほなこれ」とアルは車からキーを抜いてスチョリに渡した。

 

「薬飲むんやったらワシの水筒…」

 

「いや大丈夫、水なしで飲める薬やから」

 

スチョリが手で制しアルの気遣いを断った。この一連のスチョリの行動は、もちろんアルがワゴンで逃げ出さないよう仕向けたものだ。当前こんな砂漠のど真ん中で置き去りにでもされたら、目も当てられない惨状が待ち受けているのは火を見るより明らかだった。そしてもう二つの理由として、前述の理由を前提にメンバーだけで話し合うには、アルに会話の内容を聞かれないようワゴンから距離を置く必要があったのと、この状況を理解し解決するには少々込み入った話になる恐れがあり、それに見合ったある程度の時間が必要だったからだ。それら諸々計算に入れたスチョリの咄嗟の方便だった。

 

各々車から降り、そしてフェイクで薬を取りに行ったスチョリを待ちつつ、みな歩幅を合わせながらワゴンから離れていった。そしてワゴンに乗っているアルから見て、こちらが見えない死角になりそうな茂みまで歩き、間隔を空け横並びになると、ヒョンレが開口一番に切り出した。

 

「そのままこっちを振り向かず聞いてほしい。あのアルちゅう男の話、どこまで信じれる?俺にはさっぱりわからん。あ、ションベンしたかったらどうぞ」

 

「こんな時にできんわ」

 

遅れて合流したスチョリが神妙な面持ちで言った。アルが色々とベラベラしゃべり出したのは、「星影のワルツ」を歌う前のことである。

 

「みなさん、ワシがなんでこんなに関西弁を流暢にしゃべれるのか不思議でしゃあないでっしゃろ。無理もあらへん、全米広しと言えどこんだけ関西弁しゃべれるのワシ以外居てへん。いやね、ワシの親父が進駐軍の将校でして、あれはワシが6才の時やったから47年か?大阪の帝塚山ちゅうとこに家族で住むようなって、ほんで11才の時にこっちに帰ってきたから5年間大阪に居ったんやな」

 

アルが記憶をたぐり寄せるように、また語り出した。

 

「いや、こうして思い出しながらしゃべってると、あいつのこと思い出すな。ワシ進駐軍の子供らとあまり馬が合わんで、しょっちゅう進駐軍居住区から抜け出して近所の日本の子らと遊んでたんや。ほんでその中の一人に変わった奴おってや、そいつがワタル言う奴で関西弁やらなにやら、いろいろ教えてもらったんよ。ワシの持って来たコーラの瓶に2B弾の火薬をしこたま詰めて爆弾作ったり、それで神社の賽銭箱に穴あけたりいろんな悪さしたな。ほんま何処行くにもあいつと一緒で、仕舞いには近所の子らにワシの名前の<アルベルト>とワタルの苗字の<阿部>が似てるんかよう知らんけど、みんなでワシのこと<アベ>て呼ぶようになったんや」

 

(ワタル...アベ)

 

メンバーの数人がまさかと思った。

 

「日本に来て最初の頃、みんなワシのこと怖がって石投げてきたり、無視したりしたけど、あいつだけは違ったな。しゃあけど元気にしとるんか?ワタルは...」

 

アルがなにやらボソボソつぶやきながら遠くを見据えた。

 

「ほんでこっちに帰ってきてからも日本語は勉強したんやけど、どうしてもこのアクセントは抜けんで、仕舞いには母国語も訛る始末ですわ」

 

という具合に日本滞在の思い出話や帰国後の話諸々ぶっ通しでしゃべったのだった。

 

アルがこれまで話したことを反芻するようにメンバーが各々意見を言いだした。

 

「あのアルちゅう男が話した事を整理すると、47年、6才のとき親父の仕事の関係で一時大阪に住んでた言うてたな。ほんで進駐軍て言うてたから、昭和47年じゃない。昭和47年まで進駐軍が日本に居てたとか聞いたこともないし。だから1947年やと思う。あのアルちゅう男、どう見ても30前後にしか見えん。つまり今1960年代後半から70年初頭てなるよな。確か最初に1971年て言うてたから、信じられへんけど話の内容からしてその年とみてええやろう」

 

続けてスチョリが、これまでのアルの会話を掻い摘んで語っていく。

 

「ほんで休暇で趣味のヒッチハイクをしながらコネチカット州から今おるネバダ州に来たと。趣味でヒッチハイクもどうか思うけど、つまりここは日本でもない。俺らが今居るのは2016年の日本じゃない45年前のアメリカてなるよな。いったいなにが起きてこうなったんや。すべて狂った奴の狂言やとしても、ここはどう見ても日本じゃない。いったいいま何年何月で俺らはいま何処に居んねん?なぁガンホどういうことや!なぁガンホ、いま何時何分!俺は何処の何奴!なあガンホ、ガンホてば!」

 

狂ったスチョリがガンホの首を絞め激しく揺らした。

 

「ス、スチョリ、く、苦しい、お、俺も解らんわ!」

 

ガンホが錯乱したスチョリの手を首から振り解いた。

 

「ガンホ冗談や!」

 

スチョリが悪魔的笑みを浮かべ、微塵も詫びを入れる様子がなかった。

 

「はぁはぁ...こんな時に冗談やめて」

 

ガンホが息を切らせながら語り出した。

 

「いや、でも、あの<アベ>のくだり、妙に信憑性なかった?俺らが知ってるワタルさんて確か手塚山周辺で育ったって聞いたことあるんや。1947年に6才言うてたから、丁度ワタルさんと同世代やと思うし。ほんでなんかしゃべり方がどうも似てるというか、それが引っかかるねん。あともう一つ気になったことがあって...あのアルていう男が、グルームレイクを背にいま南下してるて言うてたやろ。それで思い出したんやけど、みんなグルームレイク空軍基地て聞いたことある?」

 

みな聞き覚えがないようで一斉に首を振る。

 

「じゃあこれは聞いたことあると思う。実はグルームレイク空軍基地はもう一つ別の呼び名があんねん」

 

みなガンホの意味深な発言に注目した。

 

「エリア51」

 

「...」

 

メンバー数人がピンとこない様子だったが、十夢だけはちがった。

 

「あっ!ほら、あれ、映画のインディペンデンスデイとか矢追純一の特番で有名な。そこでアメリカ政府が宇宙人を匿ってていろんな陰謀説が持ち上がってる...」

 

「ちょっと待て!それは知ってるけど、いったいこの状況と宇宙人がなんの関係あんねん」

 

ヒョンレが十夢の突拍子もない発言を制した。

 

「いや、ぼくらの音楽がこの時代の宇宙人のツボにハマったとか...」

 

十夢が自信なさげに続けた。

 

「なんか特別な技術で作った有線で、たまたま僕らの音源聞いた宇宙人が "よっしゃ!いっちょこいつら呼ぼうやないか!" て盛り上がって...」

 

十夢の発言がだんだん尻つぼみになっていく。

 

「あかん!あまりにも話が飛躍しすぎて話にならん。まだワタルさんの説はなんとか解るけど。とりあえずその話は無しや。それよりこれやったら確実にわかる。みんな携帯かスマホ手元に持ってないか?」

 

ヒョンレが確信を持って言った。

 

「いやヒョンレ、こんな場所まで電波届いてると思うか?たぶん圏外やぞ」

 

スチョリが忌憚なく意見を言った。

 

「僕も車乗ってるとき、気づかれんよう家族か僕ら以外の誰かにメール送ろうと思ったんやけどやっぱり圏外やったわ」

 

辻の一言で携帯スマホでの確認は現時点で不可能となった。

 

「とにかく、あのアルていう男を車から引きずり降ろさな話ならんな!」

 

こうなれば強硬手段に打ってでようとヒョンレが腕まくりをした。

 

「いや、それは承知しかねますね。あのアルが言ってたとおり、もしここが1971年のネバダ州だとすると、僕らだけだで動くのは得策じゃないような気がします。こっちは6人いてるんで、いつでも余裕で車からつまみ出せますし、しばらく携帯が繋がりそうな市街地までそのまま運転させてみてはどうですか?」

 

「ああ、確かにあのパツンパツンの服に武器を隠してるとは思えんしな。ほんで俺らがしゃべってる間もトランクまでなにか取りにいった気配もないし」

 

篤の意見にヒョンレが賛同する形で付け加えた。

 

 

「よし、とりあえず篤案でひとまず様子みやな。でも俺らの素性はなるべく伏せるようにしよう。仮に今が1971年としたら俺らはあの男からみて未来人になるわけやし、正体ばれたら余計ややこしくなる。また運がいいことに俺らが乗ってきたワゴンはリハスタジオから借りたカーナビ無しのオンボロ車、内装も性能もこの時代の車とたいして変わらん。ほんで車内のとっ散らかってるペットボトルやらビニール袋の類いも、こうなる前のサービスエリアで捨てたもんな」

 



 

「ところでみんなの名前は、バンド名はどうする?変えた方がいいんかな?」

 

辻は、ここは慎重に慎重を重ねようと意見した。

 

「いや、それはやめとこ。絶対誰か間違えて不自然になると思う。というか俺が一番ポカしそうや。とにかくヒョンレが言うたように、俺らの正体がばれんよう自然に振る舞うのが一番やと思う。ほんでアルちゅう男からできるだけ、なんでもいいから情報を引き出そう。そうや、確か俺らのことGSバンドとか言うてたな?それも念頭に置いとこう。忘れんなよ、俺らは全米ツアーをしてる、日本からきたGSバンドやからな。ちっ、もうそろそろ車戻らな」

 

スチョリがうつむき腕時計を見て、タイムリミットを告げる舌打ちをした。みなそれを合図と受け取りワゴンに向かおうとしたが、「あの...」と一言、十夢がなにか言いたげの様子で動こうとしなかった。

 

「十夢、宇宙人はおらへん!」

 

ヒョンレが、先ほど十夢が言った突飛な発言に対し釘をさした。

 

「あの、チョーさん違うんですよ」

 

「なに?」

 

「あの、ところで明日の東京のライブどないするんすか?」

 

「ああっ!...」

 

十夢以外の5人は虚を突かれたように声をだした。

 

「と、十夢くんナイス...」

 

マネージャーの篤は呆気にとられた様子で、バンドの最重要目的を思い出させてくれた十夢をつぶやきながら讃えた。

 

「す、すっかり忘れてた、十夢。で、でもそれは後にまわそう」

 

さすがのヒョンレもしどろもどろだった。

 

 

「えらい長い連れションでしたな。ほんま皆さん仲良ろしゅうて、わてほんまによう言わんわ

 

車に戻ってきたメンバーに声を掛けたアルの言葉はどこか意地の悪い姑のようだった。「ほな、ぼちぼち行きましょか」とアルが一言いい、みな乗り込んだのをバックミラーで確認しながらエンジンをかけアクセルを踏んだ。車が砂煙を巻き上げながら走り出してまもなく、アルがみなに質問してきた。

 

「そういえばみんなの名前聞いてまへんな。旅は道ずれ世は情け、ていうくらいやし、そろそろ教えてもろてよろしいか?ほな、一番うしろの野球帽かぶってる兄さんからどうぞ」

 

アルの独壇場で話がすすみ、顎でバックミラー越しの篤に合図した。

 

不安げな篤に向かってヒョンレがうんと頷く。

 

「や、柳本篤です」

 

「あっ!申し訳ないけどバンドの担当楽器も教えてくれへん?ワシ、ギター担いでヒッチハイクしてますやろ。手前味噌ながら音楽にはうるさいたちで」

 

「いえ、僕はマネージャーです」

 

「あ、そうなんや。これはこれはご苦労様です。アツシねえ?そうやなぁ、なんかちょっとひねりがほしいな。せや!親しみやすいようにこれから、あっつんて呼んでええ?」

 

「あ、あっつんですか?」

 

篤は少し戸惑った。

 

「そう、ワシが大阪住んでた時もそんなあだ名の子おったし、そのほうが呼びやすいねん。よろしいか?」

 

「え、ええまあ...」

 

篤はアルの強引な物言いに押され、仕方なく承知するようだった。

 

「じゃあ決まりでんな。ほなとなりの...」

 

アルの発した言葉とかぶるようにヒョンレが自分も含めガンホ、スチョリも紹介した。

 

「俺はチョウヒョンレ、ギターボーカル担当。で、黒のウェスタンシャツ着た長髪の男がキムガンホ、リードギター担当。そのとなりの眼鏡でボーダーシャツ着た三木のり平みたいなやつがキムスチョリ、ピアノボーカル」

 

「だれが三木のり平やねん!」

 

「だ、だれが岸部シローやねん!」

 

「ガンホ、おまえには言うてないぞ」

 

「あ、そうか」

 

ガンホが思わずスチョリにつられ早とちりをした。

 

「俺ら三人の名前聞いたとおり在日コリアンや。どうぞよろしく」

 

アルが何度か深く頷いた。

 

「なるほど在日コリアンか。ワシが大阪おった時の友達に何人かおったな。みんなええ奴やった。おう、チョーさんよろしく。あっ!自然とチョーさんて言うてもうたな。これはチョーさんで決まりかな。スチョリ、ガンホはなんか言いやすいからそのままで。ほな、オーバーオール着てる兄ちゃんいっとこ」

 

「凡人、辻凡人。オンドラムス」

 

辻は欧米人のアルに合わせたのか、それが理由で少々小洒落た言い方になった。

 

「なんやその、ボンド、ジェームスボンドみたいな言い方。キザに言うてもあかんよ。スパイには見えんし、ボンちゃんにしよ」

 

相変わらずアルの独壇場であった。アルは最後に残った助手席の十夢をゆっくり見た。十夢が自分の番だと思い、おもむろに口を開く。

 

「水田...」

 

「ミゲル?」

 

「いや、違う。水田」

 

「ミンダオ?」

 

「どんな耳しとんねん!水田、水田十夢!」

 

「ああ、ミズータ、ミズータトム!」

 

「なんか違うけど、もうそれでええわ。担当は...」

 

ここでアルが手をかざし十夢の話を制した。

 

「いや、言わんでもわかるよ。あんさん、サモアンダンサーやろ!」

 

「だれがサモアンダンサーやねん!ベースや、日本人ベーシストや!おっさんさっきからなめ腐ったこと言いやがって。なんか最初俺だけ疑ってたんも知ってるんやぞ!」

 

十夢は烈火のごとく怒り叫びだした。

 

「プッ...十夢がサモアンダンサー?」

 

ヒョンレが吹き出した。

 

「プハッ!肌がちょい褐色やし案外似合うかもしれませんね」

 

篤がヒョンレに続いた。

 

「天パやしな!」

 

スチョリがとどめを刺した。

 

「プハッ!...プハハハハハ!...」

 

十夢以外の全員が爆笑した。

 

「もうなんなんすか!みんなひどいわ。くそっ!なんかめっちゃ腹立ってきた」

 

十夢が自分のことを笑った腹いせに助手席からカーラジオをつけ、みなの笑い声を掻き消そうとしたのだろう、ボリュームのつまみをフルにした。そしてラジオからタジ・マハールの「Tomorrow Will Not Be Your Day」がタイトなリズムとともに大爆音で流れ出した。

 

「ところでバンド名聞いてなかったわ!なんちゅう名前!」

 

カーラジオの音量にあわせるように、アルが叫びながら聞いてきた。大音量のせいなのか、たまたま言うタイミングが合ったのかわからないが、みな口を揃えてこう叫んだ。

 

「ラリーパパ&カーネギーママ!」

 

 

(つづく)


 

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