2017.09.21 thu

 

 

**第4章:アマルゴーサのならず者**

 

 

<ずぶ濡れ砂漠食堂>でのライブが決まったラリーパパ&カーネギーママメンバーは、食堂内のステージを見た瞬間困惑の色を隠せずにはいられなかった。というのも、どう見てもステージ前に有るはずがない或いは考えたら普通無いはずの金網が張られているのだ。

 

メンバーの数人が普段プロレスでもしているのかと思った。と同時にいやな予感もした。ステージは5人で演奏するのに支障がでるほど狭くはなかった。メンバー各自ステージ裏からまわり機材を設置する。ピアノは常設のアップライトだった。

 

「おい、なんか凄いいやな予感しかせえへんねんけど」

 

スチョリはピアノからビールが乾いた胸をつく臭いに辟易しながら鍵盤を一音ずつ確認し微かにその両方の臭いを感じた。スチョリは昨日この店で乱痴気騒ぎでもしたのだろうか?"お国柄そういった人が大勢いるのだから仕方のないことだ"と思ったのと同時に、ここはもう日本ではないというどこか諦めきった自分でも御しきれない、ことのほか不安な思いが押し寄せてきたのだった。

 

「どない?みなフーマンチューみたいな顔してるけど?」

 

アルは不安なメンバーをよそに浮かれた表情を浮かべている。

 

「アル、この金網はなんやねん。ここの店大丈夫か?なんか店員も無愛想やし」

 

ガンホが不気味な赤茶けた金網とロブの存在に圧倒され言った。こういったライブハウスは今も昔も日本に存在しないのがメンバーの不安を駆り立てる主な要因であることから、やはりスチョリ同様ここは日本ではない感覚を、ここに来てアル以外で初めて出会った人間であるロブの排他的な態度を含め嫌でも感じさせられる羽目になった。

 

リハーサルの段取りは黙々と進んだ。普段ジョークの一つや二つ飛び交うリハーサルなのだが、そう言った理由で軽妙さはかけらも感じられなかった。リハーサルは一曲、二曲しかやらずに終えた。途中でやめた二曲目の「まちとまち」でアルはリズムに合わせぎこちなく首を振ってうんうん頷いていたが、カウンター越しのロブの表情が曲が始まってすぐに険しくなったのを数人のメンバーが認めた。

 

それがすぐリハーサルをやめた理由ではなかった。険しい表情をしながら、ロブが自分の首を親指を立てて切る動作をしていたのをヒョンレがみて手をあげたのだ。そしてその動作をみて「やめろ!」というサインだと判断したと同時にどうも自分たちは招かざる客なのではないかと、それとなくメンバーに囁いたからだった。

 

「あら、もう終わり?」

 

アルはこの状況に気付いていないようだった。

 

「ああ、終わりや。あとは本番までのお楽しみ」

 

ヒョンレはアルの気をそぐようなことは言わなかった。

 

カウンターで店主のロブと店員のカフはなにやら言い合っていた。しばらく言い合った後、ロブは両手をあげ調理場にもどっていった。カウンター近くで一部始終を見ていたアルはことの真相をカフに聞いた。

 

「ああ、ロブのやつバンドをあまり気にいってはいないようだな。あのシンコペーションの曲がどうも気に入らないらしい。やつは堅物で、オーセンティックなカントリーミュージックしか興味がないんだ。そのくせ別にたいして音楽に詳しくもないし。態度からわかるように余所者には極端にああいった態度をとる。まったく困ったもんだ」

 

「じゃあ、あんたもあまり、気にいってない?」

 

「いや、歌詞はわからないがいい線いってると思うよ。俺はロブとは違ってスタックスレーベルのレコードもよく聞くし、グレイトフル・デッドも好きだよ。まぁロブのことはほっとけよ。どうせロクに聞きもしないんだから」

 

「このことはメンバーに伝えるわ。なんか様子が変というか」

 

アルは意外とメンバーの不安な機微を捉えていたのか、心なしか心配のようだった。

 

「ああ、でも今日のライブは出てくれよ。日本のバンドなんてここいらじゃ珍しいし、以外とロブも受け入れてくれるんじゃないか?兎に角心配するな。食事も出すしギャラもちゃんと出すから」

 



 

「俺はインターステイト15号線を走っていた。確かに走っていた。なのにどういうことだ。ラスベガスからロスまでは15号線をただまっすぐに走ればいいだけのことじゃないか。猿でもわかることだ。おれは今猿以下なのか?これがラスベガスにアメリカンドリームの可能性を求めにいった俺に対しての仕打ちなのか?昨日のメスカリンが強力だったのは覚えている。だが、それとこれとは話は別だ。もともとアメリカン・ドリームなどなかったんだ。60年代の狂乱はその代償を払うように泡沫の彼方へと消えてしまっていた。それが因果なのか俺は15号線を大きく逸脱してしまい、いま自分がどこに向かっているのかさえ検討がつかない。北極星の位置すらおぼつかない。こうしていると、俺を絶望させた1963年のことを思い出させる。あのダラスの件以来この国はどうもあやしいものになった。誰も信じられなくなった。隣人でさえもだ。しかし救いはあった。ヒッピー、フラワー・ムーヴメント、ヘルズ・エンジェルズ(こいつらにはうんざりさせられたが...)が台頭した60年代カウンターカルチャーだ。それは合衆国を根底からたたき崩したあの出来事から立ち直るまでの勢いは十分にあった。俺は心底心酔したよ。もうずぶずぶにだ。大衆のエナジーを感じた。サンフランシスコは俺にとって約束の地だった。だがどうだ!今では俺にとってシスコはゴルゴダの丘ときた。こうなったのもたった5年の話だ。すべてはあのボビーの死で幕がおりた忌々しい1968年のアメリカ大統領戦に起因する。ニクソンの勝利だった。くそっ、俺はジョージ・マクガバンと一年先の大統領戦を見据えている。やつで本当に大丈夫なのか?いまなら、多少若いがジェリー・ガルシアと共闘すべきじゃないのか?絵空事だが可能性はあるんじゃないか?嘘だ!おれはいま自分に大嘘をぶっかましている。なんの根拠がある。いい加減にしろ!それにしても助手席の茶トラはいつ乗ってきた。コンバーチブルのせいなのか、俺が気がつかない間に…「おい、お前!いつから乗ってきたと聞いているんだ!」くそっ、俺の問いかけにこいつ欠伸をして伸びをしやがった。まぁいい、好きなだけ居ろ!しかしビルトモアホテルで落ち合うアーパの研究員の案件は確かに興味深い。軍産複合体の破廉恥かつ下劣な行為に吐き気を催すが、ジョンとボビーの弔いになる絶好のチャンスだと確信する。俺のジャーナリストの感は衰えてはいないようだ。むしろ冴えていると言っても過言ではない。まだ大筋は掴めてないが、カルテルとの接触場所は掴めた。しかし情報を掴んだ時は大笑いしたよ。これはヤン・ウェナーに報告しなくちゃな。そして"なんのジョークだ!”と二人して大笑いしたい代物だよ。なんせローリング・ストーン誌の主催イベントの会場近くで取引をするって言うんだから、これを笑わずしていつ笑う。しかし他言は控えるべきだ。この取引がご破算になるのだけは御免こうむりたい。あの兄弟の無念は是が非でも晴らしたいんだ。しかし腹が減った。二日、いや三日碌に口にしていないな。「おい!おまえも何か食いたいか?」なんだこいつ!言葉が通じたのか?俺に上目遣いを使いやがった。よしわかった!ビーフジャーキーでもあげようじゃないか。ちょうど俺にぴったりの名の<ずぶ濡れ砂漠食堂>というダイナーをたった今通り過ぎたところだ」

 

 

(つづく)


 

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