2017.11.20 mon

 

 

**第7章:マイティーガール**

 

ヒョンレがジョッキに口をつけ勢いよく傾けると、のどを鳴らしながら一気にビールを飲み干した。普段よりいきんでシャウトしたせいか、くたびれた声帯からビールののどごしがはっきりと感じられた。極寒のなかで暖をとるような、弛緩した心地よさが五臓六腑に染みわたる。

 

「はーッ!やっぱりビールは体に浴びるより、こうやってぐびぐびと飲むもんやで。て言いながら、今から浴びるほど飲むけどな」

 

ヒョンレは混沌を極めたライヴをやりきった充実感で上々の気分だった。

 

「チョーさん、うまいこと言うな」

 

「おいアル。あの一曲目のせいで俺らどえらい目にあったんやぞ。普段通り正攻法でライヴしとったら、あんなことにはならんかったんや」

 

「い、いや、でもローハイドもよかったで」

 

アルは言い訳がましくヒョンレに言った。

 

「まぁ、あれのおかげで変なスイッチ入って、自分でもようわからんテンションで歌えたけどな。しゃあけど投げも投げたり、こいつらいったいどんなけ瓶投げこんだんや。そこらじゅう破片だらけやんけ」

 

ビールの甘ったるいホップの臭いが立ちこめる破片だらけの床は、さきほどの狂喜狂乱ぶりを著しく物語っていた。

 

「How another cup? Stand treat!」

(もう一杯どうだい?おごるよ)

 

客の一人がヒョンレにビールのおかわりをすすめた。

 

「Thanks! Then I shall presume upon your kindness」

(ありがとう!それではお言葉に甘えて)

 

ヒョンレはかぶっていた中折れ帽を取り、軽く会釈して好意的な客に礼を言った。

 

「あれ?チョーさん英語しゃべれるやん。あ、なるほど!だから英語の歌詞をあんだけすらすら歌えたんやな」

 

「おう、昔とった杵柄とやらで英検2級や。ある程度の日常会話くらいはいけるで」

 

「へー、そうなんや」

 

アルは笑みをうかべてヒョンレに感心した。

 

「You guys right now, Get out here!」

(おまえたち今すぐここから出ていけ!)

 

怒号の主はロブのものだった。

 

「どうした、ロブ!」

 

ステージ付近で掃除をしていたカフは、カウンター越しにいたロブに振り返った。

 

「こいつら、いったいどういう了見だ。ここはアメリカだぞ。日本語なんぞで歌いやがって...まったくなんてこった、俺を逆撫でするような歌を歌いやがって。お前たちにはびた一文出演料は払わん。とにかく今すぐ出て行け!」

 

談笑していたメンバーは、ビールジョッキをもったままロブを不安げにみつめた。

 

「おいロブ、いくら何でも話がちがうじゃないか。お前あのとき渋々だが了承したはずだ。なのに今さら何を言ってる!」

 

「だまれ!いいかカフ、この店はおれの店だ。いくら店員のお前が騒ごうと知ったこっちゃない。店主の言うことには絶対服従だ」

 

「おいロブ!いいかげん余所者を邪険に扱うのはやめろ!」

 

ロブの理不尽な発言を聞いていた客のひとりが、さすがに黙ってはいられなかったようで、ロブに対して怒声をあげた。

 

「うるさい、お前たちも今すぐ出て行け!」

 

ロブはそう言うとカウンター真下のフックに掛けていた上下2連式散弾銃をとりだし、フロアのほうに銃口を向けた。

 

「これでも出て行かないか、え!」

 

フロアに居た全員が、その行為に背筋が凍りくようだった。

 

「もう我慢ならない!こんな店今すぐやめてやる!」

 

カフは脱いだエプロンを丸めて床に叩きつけた。ロブの眉がわずかに動く。

 

「ほう、そうくるか。よしわかった、そこまで言うんならこちらも譲歩しようじゃないか」

 

ロブはそういうと向けていた散弾銃をおろし、出入り口付近で腕を組んでことの成り行きを見ていた大男に声をかけた。

 

「ホッグ、こっちに来てもらえないか」

 

ホッグはゆっくりと歩をすすめカウンターの方に向かった。

 

「お前らの中の一人が、このホッグにアームレスリングで勝てたら出演料全額払ってやる。まぁみる限り全員でやっても適いそうにもないがな」

 

「ええ...」

 

アルはホッグのパンパンに腫れ上がった上腕二頭筋と身の丈6フィートはゆうに越える体躯に絶句した。

 

「アル、あのおっさんなんて言うてるん?」

 

「あのスキンヘッドのごっついおっさんに腕相撲で勝ったら出演料払う言うてる」

 

「えっ?うそやん!」

 

「おう、なんか日本語の歌がどうも気にさわったみたいやな」

 

アルの代わりにヒョンレがざっくりではあるが、辻にことの経緯を説明した。それを聞いたほかのメンバーも思わず固唾をのんだ。

 

「あ、あれにどう勝てと?」

 

ガンホは絶望した。

 

「こうなったら...」

 

アルがそう言いながら、二の腕のたるみが食い込んだTシャツの袖口を肩まで無理矢理まくりあげると、ロブに威勢のいい啖呵を切った。

 

「おうおうおうおうおう!黙って聞いてりゃいい気になりやがって。貴様何様のつもりだ。くそっ、こうなったら...」

 

と言うと、アルはメンバーがいる後ろへ振り向き叫んだ。

 

「ボンちゃん、カモン!」

 

「え...カモンて?」

 

辻はいきなりのことで、なんのことかさっぱりだった。

 

「だから、ボンちゃんカモンや!」

 

事態を把握した辻の顔色がみるみる青ざめていく。

 

「無理無理無理無理!」

 

「何をもたもたしてやがる。いないんなら10秒以内にこの店から出て行け。さもなければ…」

 

ロブはしてやったりの顔をしながら再び銃口を向けた。

 

「ロブいい加減にしてよ...」

 

カウンター際の暗がりからか細い女性の声がした。

 

「なんだキャロル、お前には関係ない。そこでおとなしくミルクでも飲んでろ!」

 

「いや、黙ってられないわね」

 

コーカソイド特有の目鼻立ちがはっきりとした、しかしどこか東洋のエッセンスも感じさせる顔立ちの女性がカウンターのイスから立ち、ロブのほうへゆっくりと歩み寄った。彼女は凛とした黒い瞳でロブを見つめる。

 

「あなたの人種偏見もここまできたら病気ね。いい、ここはアメリカ合衆国。どんな人でも喝采を受ける権利があるのよ。どんな肌の色であろうと、どんなに貧しくても、努力したすべての人に分け隔てなく賞賛が与えられる。私たちの国はそうやって発展してきたんじゃないの?わたしもあなたもその恩恵を受けて育ったのよ。彼らはベストを尽くした。なのにあなたは、自分の立場を利用してそれを踏みつぶそうとしている。まったく、自分がやっていることがわかっているの!この恥知らずの卑怯者め!」

 

キャロルはロブを指さし激しく罵倒した。

 

「...」

 

ロブはキャロルに対し、返す言葉が見つからなかった。

 

「ロブ、ホッグに勝てば出演料を払うのね?」

 

「あ、ああ。だが他の者は手出し無用だ」

 

「わかった。じゃあ、こうしましょう。わたしは自分のトレーラーを賭ける。わたしが負けたら売るなりなんなりして」

 

「おいロブ、こんな小娘に俺が負けると思うか!こうなったらキャロルのトレーラーもいただこうぜ!」

 

ホッグはそう言うとにやにやと笑みを浮かべた。

 

「とにかくそういうことよ。わたしは一回言ったことは絶対曲げない。負けたらこれも必要ないわ。なかに20ドルと免許証が入っている。20ドルも賭け金よ」

 

キャロルがそう言うと中折りの財布をカウンター越しに居るロブに放物線を描くように投げた。

 



 

ステージ中央前のテーブル席にキャロルとホッグが向かう。それに応じて店内いる全員がテーブルを中心に輪になるように集まりだした。

 

「Thanks dangerous driving this morning!」

今朝は危ない運転ありがとね)

 

キャロルはテーブルに向かう途中辻にウィンクをして何か語りかけたようだった。

 

「辻くん、あの娘辻くんになんか言ったよな」

 

「スチョリくんは何を言ったかわかった?急に話しかけられたから、聞き逃したわ。デンジャラスドライブなんちゃら..デンジャラスドライブ、危ない運転...あっ!」

 

辻はなにやら、思い当たる節があったようだ。

 

「あの時のトレーラーの運転手!」

 

「えっ!」

 

「ほら、あの事故りそうになった時のトレーラー。あのトレーラーの運転手...」

 

「なんで、なんでそう言える?」

 

「いや、向こうは左ハンドルでこっちは右ハンドル。衝突寸前に向かい合った時ちょうど真正面やったから。ほんであの娘がかぶってる帽子が妙に目に焼き付いてて...」

 

「にしても、俺らのことがなんでわかったんやろ?」

 

スチョリはふと疑問におもった。

 

「アルが言うてたけど、ここいらじゃ東洋人は珍しいうんぬんかんぬん言うてたような。だからあの娘も僕ら見て思い出したんちゃうかな?」

 

辻はスチョリにことの真相を説明した。

 

「しかし、あの娘があの時のトレーラーの運転手とはな。ほんでよう知らん初めて会った俺らのために...ほんまあんな体格の娘が。ほんまに大丈夫か?こうなったらギャラとかどうでもいいんやけど。というか可愛いし一緒に飲めへんかな...」

 

しょうもない下心はあったものの、ヒョンレなりにキャロルの申し入れに感謝しつつ、しかし細身のキャロルを案じてか、思いのほか心配するようだった。ホッグとキャロルがテーブル席に向かい合って座った。

 

「キャロル、お前も女子の部で優勝したそうだが俺に勝てる理由が全くない。体格、筋力、骨格、経験、実力どれをとっても俺の足下にも及ばないんだよ。フン、今のうち降参したらどうだ。おまえは俺に絶対勝てない。100%だ」

 

ホッグは息巻いてキャロルにすごんでみせた。しかしキャロルは臆することなくホッグを静かに睨みつける。キャロルは長い赤毛の髪をヘアピンで束ね、ワフー酋長のワッペンが縫ってあるクリーブランド・インディアンズのキャップを前後逆にかぶり、全神経を一点に集中するようにホッグの目を見つめる。チェックのターコイズシャツをまくり上げると、キャロルのしなやかでバネのありそうなしまった筋肉が露わになった。

 

両者テーブルに肘を付き、右腕を組む。

 

「いいかホッグ、キャロルも聞いてくれ。この勝負どちらかの手の甲がテーブルについた時点で勝負あり一回こっきりの勝負だ。負傷による途中棄権も認める。そのときは我慢せず左手をあげてくれ。お互いフェアな試合を心がけるように」

 

カフが両者の手をがっちりつかみ、勝敗の付け方を説明した。

 

「Ready...」

 

会場がざわめきだした。

 

「Go!」

 

客と思わしき、よれた紺のスーツを着た白髪の男が、右腕にギプスをつけた男といつの間にやらステージにあがっていた。二人はスタンドマイクの前に立ち、片割れが勢いよくまくし立てる。

 

「さあ、始まりました両者の対決。二人ともアームレスリング世界大会チャンピオンという実力者同士の対決となりました。キャロル・リー選手は今年女子の部のチャンプ。一方ホッグ・ストーン選手はディフェンディング・チャンピオン。今年を含め男子の部三連覇の偉業を達成したレジェンド。実況はここの常連で地元ラジオ局の人気情報番組『アマルゴーサだよ!おっかさん』でおなじみ、私アーネスト・マカボイと解説はベガス大会一回戦でホッグ選手に腕をへし折られ、その腹いせにやったカジノで300ドルすり、そして今は不仲のカミさんと離婚調停の真っ只中、踏んだり蹴ったりのジェフ・ホワイトウッド氏でお送りします。ジェフさんどうぞよろしくお願いします」

 

「うるせえよ。お前なに他人の壮絶なプライベートをベラベラしゃべってんだよ」

 

「...」

 

「さあ、両者静かな立ち上がりとなりました」

 

「無視かよ...」

 

「驚くことに女子のキャロル選手がホッグ選手に負けず劣らず対等に組んでいます。両者ピクリともしません。ではここでジェフさんにお伺いします。ここから両者どういった展開に持って行こうとしているのでしょうか?さらに女子ながら巨漢ホッグ選手の猛攻を耐えているキャロル選手の強さの秘密もお聞きましょう」

 

「ああ二人の特長はだな、わかりやすく言うとホッグは瞬発力を生かした短期決戦タイプ、キャロルはバランスを重視した長期戦を得意とするタイプだ。いまホッグは右腕に全体重をかけ、一気に決着をつけようとしたが焦ってバランスを崩したようだな。いや、”崩された"と言ったほうが正しいか...」

 

「崩された、と言いますと?」

 

「ああ、キャロルはいろんな酒場で大男に混じりながら賭けのアームレスリングをしてきた。俺が言うのもなんだが..実は俺も何度かキャロルと手合わせしているんだが勝った試しがない。ある時、キャロルに聞いたんだ。お前のその華奢な腕で倍以上の体格をした男たちに一体どうやって勝てているんだってね」

 

「はい、で?」

 

「聞くところによると、どうもあいつの母方のじいさんが太極拳の大家らしい」

 

「太極拳?チャイナタウンで、じいさんばあさんが毎朝やっているあの体操のような?」

 

「だが体操といってもああ見えて太極拳自体人を倒せる立派な武術らしい。キャロルはその太極拳の基礎となる<推手>という組み手を子供の時から毎朝欠かさずやっていたそうだ」

 

「毎朝?その推手とは、一体どういったもので?」

 

「簡単に説明すると、相対した二人がその場から一歩も動かず、触れ合った腕や手の感触だけで相手のバランスを崩すという組み手だ。そしてその水の流れのような動作が、あらゆる中国拳法の基礎となる動きになっている。おい、キャロルの腕をよく見てみろ」

 

「はい...」

 

「自分の右肘を中心に円を描くような動きをしているだろ」

 

「はぁ...言われてみれば確かにそうみえますね」

 

「だろ、ああやって関節の動きや筋肉の微かな緊張を読んでホッグの力をうまい具合に逃がしているのさ。そして僅かな間隙をぬって相手の力を利用し一気に腕を倒す。長期戦を活かしたキャロルの得意な戦法なんだよ。ホッグの野郎全力で潰しにいっているにも関わらず、もたついているのはそのためさ」

 

「それでは十中八九、このままキャロル選手の勝ちと、そうおっしゃるのですね」

 

「いや、それがそうでもなさそうだ。徐々にではあるがホッグが押してきている。キャロルの術中にはまったら、そろそろ決着がついてもおかしくないんだが...」

 


 

解説のジェフが言うようにホッグにはまだ有り余る力が感じられた。しかし自分より遙かに体格が劣る、しかも女性であるキャロルにいいように翻弄されたことをホッグはよしとしなかった。安酒場の面前であっても、彼のプライドはおおいに傷付けられたのだった。ホッグは顔を伏せ怨念めいた目でキャロルを睨み、煉獄から微かに聞こえてくる亡者のような声で語りかけた。

 

「や、やってくれたな...だが、どんな小細工を使おうが俺には通用しねぇ。ここからが俺の本領発揮だ。へへ、今朝打ったステロイドが今になってやっと効き始めたぜ。キャロル、覚悟するんだな」

 

薬物の効果なのか、ホッグのこめかみや腕に針も通さぬような屈強な血管がはっきりと浮き出した。その瞬間、ホッグが強く握ったキャロルの手からミシッと骨が軋む不快な音がした。

 

「キャァ!」

 

キャロルは急激な痛みに耐えかね思わず声をあげた。

 

「おい、なんか、いま変な音せえへんかったか?」

 

「まさか、お、折れた...」

 

ヒョンレとほかのメンバーもそのいやな音をとらえたようだった。ホッグは痛めつけるためか、これみ見よがしにキャロルの腕を自分の胸元あたりにジリジリ寄せていき捻りを加えた。推手の極意である聴勁(ちょうけい)が効かなくなったキャロルの腕は、ホッグの人外なる力になす術なく、あらぬ方へと反りだしていく。

 

「キャロルこれは公式戦じゃない、無茶することはないんだぞ!おまえはよくやった。しかし、そのまま続けたら本当に折れてしまうぞ!」

 

審判をかってでたカフの忠告にキャロルは激しくかぶりを振って叫んだ。

「No!!!」

 

「へっ!そろそろ頃合いだな。お前もこれで終わりだ」

 

ホッグは最後の仕上げに入ったのか、自分の胸のあたりで捻れているキャロルの腕を瞬時に元の位置へ戻した。キャロルの右手は握力がなくなっているのか力なく開いた状態だった。悔しいが、誰もがホッグの勝利を疑うことはなかった。

 

「The End!」

 

ホッグは余裕の笑みを浮かべて呟く。

 

「アカン、もう完全アウトや!」

 

スチョリが手で目を覆いながら思わず声をあげた。

 

「ヤァアアアアッ!」

 

キャロルも玉砕を覚悟したのか最後の力を振り絞り、全身全霊を込めた気合いを発した。

 

パーン...

 

勝負ありを告げるような乾いた破裂音が会場にこだました。

 

「......!」

 

「...へっ!」

 

スチョリは唖然とした。いや、会場にいたみんな肝を抜かれたように静まりかえった。みなの絶望的な予想に反して、机上にはホッグの右手が力なく横たわっていた。そしてホッグの身体も床に仰向けになって倒されていた。

 

「へ、う、うそやん。あの娘...勝ちゃったよ」

 

十夢は驚きのあまり言葉が続かない。

 

「しょ、勝者、キャ、キャロル・リー選手!」

 

実況をつとめるアーネストが困惑しながら勝者を告げた。

 

その瞬間、会場にいる全員喜びの歓声をあげた。

 

「Yeaaaaaaaaaaah!!」

 

「うわおぉぉはああああああ!!」

 

ラリーパパメンバーも叫び慣れてないせいか、思わず気味が悪い歓声をあげた。

 

「しかし驚きました。ここにいる誰もがホッグ選手の勝利を疑うことはなかったでしょう。しかし解説のジェフさん、これはいったい何が起こったんでしょうか?」

 

「ああ、ホッグのヤツいつもの癖がでたんだよ。ヤツは勝負を決めるとき、ほんの一瞬だが自分の手の甲へ腕を傾ける癖がある。倒した分その反動は大きくなる。そしてその反動を利用して相手の腕をへし折るほどの勢いをつけ一気に勝負を決めるのがヤツのやり口さ。キャロルは一瞬の隙をついてホッグが緩めた力を再び入れる瞬間をとらえ、柔らかい手首のスナップを利かせながら相手の力の進行を逆転させ身体ごと倒してみせた。詳しいことは解らないがホッグのすさまじい力と体重、そしてスピードに乗ったキャロルの体重も自分の腕にかかったんだからヤツの腕は無事では済まないだろう。しかしおんながてらに、まったく大したヤツだよ!キャロルは」

 

「キャロル!キャロル!キャロル!…」

 

会場に鳴り響くコールにキャロルは帽子を振り、応えた。キャロルは満身創痍だった。しかし彼女は八重歯をのぞかせながらその屈託のない笑顔を惜しみなく見せたのだった。

 

「I did it!!」

(やったよ!!)

 

キャロルはラリーパパメンバーにも帽子を振って痛めた右手で投げキッスをした。

 

「ほ、ほ、惚れてまうやろー!」

 

アルを含むラリーパパ&カーネギーママ一行は一斉に声を張り上げ、年甲斐もなく頬を赤らめながら思わずそう叫んでしまったのだった。

 

 

(つづく)