【 選・文 】
岩城一彦/大間知潤/kaori/キム・ガンホ/谷口潤/チョウ・ヒョンレ
辻凡人/中井大介/増家真美/水田十夢/柳本篤(五十音順)
いよいよ開催が近づいてきた『Music Street 大阪特別編』。スペシャル企画としてcitymusicにゆかりのあるミュージシャンたちに「私のはっぴいえんど」と題して、オススメの3曲をセレクトしてもらった。はっぴいえんどとしての活動期間は短かったが、解散後も精力的な活動を続け、日本の音楽シーンに及ぼした影響は計り知れない。そこで対象楽曲は少し幅広くし、①スタジオ&ライヴ音源を含むはっぴいえんどの公式音源 ②はっぴいえんどがバッキングを担当した楽曲 ③メンバーが参加した楽曲(1975年までの作品、プロデュース作なども含む)のいずれかに当てはまる楽曲から3曲をセレクト。選者それぞれの趣味嗜好がよく出た興味深い結果になった。コメントもあわせてお楽しみいただければ幸いである。
岩城 一彦
パイレーツ・カヌー
1. 風をあつめて
2. 暗闇坂むささび変化
3. 花いちもんめ
はっぴいえんどは集中的に『風街ろまん』ばかりを聞いていたので選曲は全てこのアルバムからになります。ファーストの『はっぴいえんど』からのロックバンドという印象から少し気色が変わったと感じた「風をあつめて」は完全に中毒的に一時期聴いていました。ブルーグラスが好きな時期が長かった僕にとって「風をあつめて」や「暗闇坂むささび変化」の曲中で聞かれるアコギやマンドリンの音はそれまで聴き馴染んでいた音とは違ったのが凄く印象的でした。言葉で説明するのは難しいのですが、<ポップ>な音に感じたのだと思います、そういう使い方があるのだなと大そう勉強になりました。『HOSONO HOUSE』の「恋は桃色」のペダルスチールギターにも同様の感覚があります。
「花いちもんめ」はただただストレートにロックでカッコ良くて好き!という曲です。どの曲もどうしても楽器の音色に耳がいってしまうのですが、この曲もエレキギターのフレーズと音色が好きで堪らないのです。
蛇足ですが、はっぴいえんどの楽器の音の感覚や詩的な歌詞の感覚に再度出会ったのは、ラリーパパ&カーネギーママだなと再確認しました。
大間知 潤
1. 春らんまん
はっぴいえんどで1曲あげるのは悩むんですが、この1曲が今の気分。巴旦杏なんて歌詞、この曲でしか聴いたことがないんです。洒脱だ。言葉も音楽もトータル駄洒落的で、ルーツミュージックも匂わせながら、感覚的にはすごくポップ。暖房装置や冷房装置、エレクトリックとアコースティック、音と隙間、季節や時代がこの曲の中で行ったり来たりしながら、来ることのない春を待つ。3分弱の諸行無常。最後のバンジョーをバックにコーラスが重なるところの、ワクワク感。待ちぼうけも悪くないぢゃないか。
2. 海ほうずき吹き - 西岡恭蔵
シンプルに恭蔵さんの声が好きです。学生時代によく聴いたけど、やはり今も好きで聴くし、ギターを家で弾くときはよくこの唄を口ずさみます。大好き。恭蔵さんの音楽と出会ってから、ずいぶんしてからボビー・チャールズを知って聴いたときは、この曲の入ってるアルバム『街行き村行き』なんかはすごく近いものを感じて。細野さんのプロデュース力と恭蔵さんのうたの出会い。僕の中でアフターはっぴいえんどの日本のシーンと70年代アメリカのSSWのシーンとがまさに結びついた時代性を感じる作品。
3. それはぼくぢゃないよ(アルバム・バージョン)- 大滝詠一
やっぱりこれじゃないでしょうか。このテンポ、すごくみずみずしいうたと楽器の音。謎のドラマー、イーハトヴ田五三九(みなさんご存知、大滝さんの変名)のデビュー作にして、このドラムがタマラン。駒沢さんのペダルスチールはサイコー。そこに、大滝詠一さんのうたとハーモニー、もうコメントは無用。やっぱりこれだ。
kaori
1. 風をあつめて
子供の頃から音楽は好きやったけど、はっぴいえんどには全く縁がなくて、CMでカバーされてた「風をあつめて」が初めて好きになった、はっぴいえんどの曲。二十歳も過ぎてたんじゃないかと思う。CMという短い時間でも心にすっと入ってきてええ曲やなぁと思った記憶が。沢山カバーされてると思うけど、大好きなシンガーのLeyonaがカバーしてたこともあって、更に好きになった。『風街ろまん』に収録されてるこの曲は、オルガンがオブリにしか使われてないのが、私には新鮮で、歌との相乗効果が素晴らしく、より一層
良い曲やなと思わせてくれる。
2. 暗闇坂むささび変化
で、「風をあつめて」の余韻に浸ってると、軽快に始まる「暗闇坂むささび変化」。物語でも始まりそうな歌い始めに、割とベターッとした感じで下降していくベースライン、その上に軽やかなマンドリンが乗って、ギター、ドラムと、絡み合って耳惹かれる。でも、短くてすぐ終わっちゃうので、エンドレスでリピートしたくなってくるトランス感がある(笑)
3. 風来坊
緩やかに始まったと思ったら、途中からトランペットがどんどんグルーヴィーになっていって、終始鳴り響く。童謡っぽい感じもするメロディに、演奏は淡々とした感じと、静かに熱い感じと、明らかにエモーショナルな感じとが、共存してて面白い。この曲もリピートしたくなる中毒性がある一曲。
キム・ガンホ
ラリーパパ&カーネギーママ
1. 敵タナトスを想起せよ!
2. 無風状態
3. さよならアメリカ さよならニッポン
1970年代において英語圏の国以外でこれほどアメリカン・ロック・ミュージックを咀嚼して自己の表現に置き換えたバンドは、はっぴいえんど以外存在しただろうか。しかし、なんの前例もない現状で自主的な日本語のロックを創造した労力たるや、並々ならぬものだったに違いない。もちろんサウンド面においても。いや、それは僕の想像の範疇にとどまるもので、案外ひょいと飛び越えてたかもしれないが。はっぴいえんど以前に隆盛を極めたGS、ロカビリーブームでも日本語のロックはそう珍しいものではなかった。しかし良い意味でも悪い意味でもそれは、日本のリアルな一若者の現状、自己投影に帰結することのない大衆に迎合する音楽だった。
「敵タナトスを想起せよ!」では孤独と対峙するひとりの若者の心象風景を日本語の豊富なボキャブラリーを生かし、視覚、嗅覚さえ刺激するような細かいディテールを伴った歌詞楽曲となっている。私はその時代に生きてはいないし、はっぴいえんども当然オンタイムでは聞いていない。だけれども、あの時代に生きた若者と今の若い世代が抱えている孤独感はさほど変わらないと思う。各世代が体感した時代背景云々に関わらず新たなフォロワーが生まれてくるのはそういう理由からだろう。普遍的なのだ。春夏秋冬、日本の心象風景も若者の孤独も。
はっぴいえんどは前述したジャパネスクの歌詞世界に、アメリカのウェスト・イーストサウンドを取り入れた稀有なバンドとしてある一定の評価を得た。しかし本当の意味で理解する人は少なく、彼らは最後に海を渡ることになる。「無風状態」のように意気揚々と渡ったのかはわからないが。
そしてヴァン・ダイク・パークスのプロデュースでラストアルバムを制作し、フィナーレを迎えることになる。最後の曲「さよならアメリカさよならニッポン」はなんとも感慨深い。当時はっぴいえんどが大衆に受け入れられていれば、日本の音楽シーンもだいぶ特異なものになっていただろう。真の意味で多様な音楽文化に。
最後に、一言一句正確に覚えていないがテレビで細野晴臣さんがこんなことを仰っていた。
「僕らは当時相当奇妙なことをやっていたと思います。だから日本で理解されることはなかった。それはアメリカでさえ…でも、それでよかったんです。”はっぴいえんど”だったんです」
谷口 潤
パイレーツ・カヌー
はっぴいえんど関連の曲ですか。熱心なファンとまでは言えなくとも、そりゃ好きになるし、ときどき鼻歌にして口ずさむこともあります。通しでは歌えないんですけどね。僕のオススメは鼻歌フレーズで選ぶ3曲ということにしておきます。ママになったバンドメンバーのために子守歌も一つ。
1. ありがとう - 小坂忠
~ ただどうも どうも・・・だんだんバカになって行くのです ~
ピンとこない話に笑顔で相づちを打ってしまうこともありますね。
2. 夏なんです
~ ギンギンギラギラの・・・日傘くるくるっ ~
草の匂い、濃い影。子どもの頃のワクワク感。夏なのだ。
3. 三時の子守唄 - 細野晴臣
~ 夢をみなさい・・・古い魔法のビンの中に ~
安眠礼賛。昼寝もいいですね。
チョウ・ヒョンレ
ラリーパパ&カーネギーママ
日本語で歌うオリジナルソングを書く上で、はっぴいえんどを聴いたことがある人と、ない人と、この二種類で分けてしまえるほど、大きな影響を与え続けるバンドじゃないでしょうか?はっぴいえんどを聴いていなかったら、今、僕はどんな音楽をやっていたのか?でもやっと、呪縛から抜け出せそうなところまで来た気もします。そんな思いを込めて、当日はカバーを歌います。
=チョウ・ヒョンレ&岩城一彦 2018.6.5 setlist=
1. さよなら通り3番地
2. 空いろのくれよん
3. 暗闇坂むささび変化
4. ホームワード・バウンド(オリジナル)
辻 凡人
ラリーパパ&カーネギーママ
1. 風来坊
はっぴいえんどはサードが一番好きです。それぞれやりたいことに溢れている音。その気持ちの拮抗とはうらはらのクールなサウンドにグッときます。郷愁という気持ちはとても都会的。それと同じで風を感じる都会人の土の音がアルバム全体からあふれています。その中でも「風来坊」。自由人という生き方がイメージ出来るこの楽曲。自由に人生を謳歌してもよいという無責任な指南書。凝り固まった正しさに疑問を持っていた大学生の僕にしっかりと突き刺さりました。
2. 抱きしめたい
ラリーパパで最初にカバーをした思い出の曲。ロックやブルースの持つファンキーさを初めて体感しました。タイトな音で、空間を埋めないグルーヴが良い。想いを口に出せない青臭いブルースを、カッコつけている様が愛おしい。
3. ほうろう - 小坂忠
世界的にディスコ前夜のこの時代の日本からのカウンターファンク。サビで落ちるアレンジがいい。細野さんのベースがフィーチャーされがちだけど、エレピ/オルガン/クラビも凄いんです。
中井 大介
オンザコーナーレコーズ
1. 失業手当 - 高田渡
2. 青い魚 - 金延幸子
3. 風来坊 - はっぴいえんど
はっぴいえんど、ティンパンアレーの音楽は僕の青春そのものでした。どこか憂いを帯びたようなサウンドや演奏、他のだれでもない独特のグルーヴ、10代の僕にはとても刺激的でした。どの曲も大切で、とても絞りきれませんが、迷いに迷ってこの3曲にします。
どれも僕が生まれる前の曲ですね。今でも時折ふと思い出して口ずさんだりすると、10代の頃の有り余った力や物憂さ気だるさ、住んでいた下宿部屋を思い出します。
増家 真美
1. はいからはくち
はっぴいえんどを知るきっかけの曲です。大学生の時、軽音部の怖い先輩バンドが演奏していて、なんてかっこいい曲なんだ!!とビックリしました。
2. あしたてんきになあれ
はっぴいえんどの歌詞に【少女】が出て来る唯一の曲かも?(違ってたらすみません!)当時、友人と"少女永遠"というフォークデュオを組んでいた私は、歌詞に【少女】と出てくる曲を集めていました。お!はっぴいえんどの少女曲捕獲!という気持ちでした。千羽鶴を、千羽~、鶴折った少女は~に分けて歌っていて英語っぽく聴こえるところが特に面白くて好きです!
3. 空いろのくれよん
空いろのクレヨンできみを描いたんです。まずこの出だしの歌詞に撃ち抜かれました。黒では無くて空いろで。鉛筆では無くてクレヨンで。描きたくなるような、透明感がありながら柔和な雰囲気を持つ素敵な女の子が浮かびます。錆びれているんじゃない、そっぽを向いた真昼の遊園地で。その女の子は花模様の、ワンピースでは無く、ドレスを着ていて。ぼくのポケットには入りきらない!ポケットに入り切らない理由は何かというと!ぼくはきっと風邪をひいてる、からなんです!恋の病という風邪を!!
ソララロィ~
イロロ~ォ~
ララララィ~
ラララィ~ィ~
ヨーデル風の歌声とペダルスティールギターの浮遊感が合わさり、真昼の遊園地のきみと、画用紙のなかのきみとの間を揺れ動く心そのもののように響いてきます。恋してるの?恋に恋してるの?どっちなの!!!?でもそんな事、どっちでもいいんです。ぼくはきっと風邪をひいてるんです。
恋って本当に素晴らしいですね。
さよなら、さよなら、さよなら。
水田 十夢
ラリーパパ&カーネギーママ
1. 颱風
大滝さんの太くざらついたボーカルがかっこいい。言葉と音の混ざり方、切り方が面白い。言葉が”音楽”になってる。日本語の持つ言葉の"ビート"が心地よく耳に入ってくるんです。どどどどどっどーは宮沢賢治的オノマトペで、ぐっとくすぐられます。
四辺(あたり)は俄かにかき曇り
窓の簾を洌(つめ)たい風が
ぐらぐらゆさぶる
正午のてれびじょんの天気予報が
台風第二十三号の接近を知らせる
「あーたりわにー わかにっか っきくーもりー」
「まどのっすー だれをー つめたいかぜがー」
「しょうごのー てれびー じょんの てんきよほうが」
当たりワニってどんなワニ?当たり?ワカニッカってどんなウイスキー?
窓野っすー。え?誰?窓野っすー。ジョンの天気予報、始まりましたー。ワニ当たりました~。
2. 敵タナトスを想起せよ!
松本さんのハードボイルドな歌詞がかっこいい。若き日の細野さんのボーカル曲。苦悩する若者の行き場のない感情が薄暗いロックに乗って、闇へと連れて行かれる感覚。最後のカウベルやギロを鳴らすアイデア、雰囲気、最高。「タナトス」って何やねんと。調べたらギリシャ神話に登場する「死を司る神」の名。フロイトの精神分析用語では死への誘惑やと。
暖い布団を温々と纏う
私は冷い
何を怨もう 何を呪う
硝子壜の底で喘ぎ苦しんで
可笑しくもないのに笑い出したかった
沈黙に落ちる とても不可思議な夜だった
くー!かっこえー!俺も硝子瓶の底で喘ぎ苦しんでみたい!俺もなんか悶々としたい!
悩みないか、その辺に落ちてないか!?なにかに悩んでみたい!
3. 相合傘
最後はロサンゼルス録音のサードアルバムから。このアルバムからぐっと大人っぽくなっている。こちらも細野さんのボーカルですが大好きな曲です。愛らしい歌詞。矢野顕子さんと細野さんが二人でやってるバージョンも大好きで、増家真美とのライブで定番レパートリーにもなってます。
明日雨降りゃ
ほうづきクチュクチュ
相合傘 楽しみ
すっかり晴れても 離れないさ
ほおずりクスクス 相合傘 道行
…くー!
俺もクチュクチュしたい。
クスクスしたい。
柳本 篤
マネージャー
1. かくれんぼ
初めて聴くアルバムのことを個人的に”ヴァージン・レコード”と呼んでいますが、さらにその1曲目というのはやっぱり相当なインパクトがあるもので。僕の”はっぴいえんどヴァージン”は1993年にキティから出たベスト盤で、1曲目が「かくれんぼ」でした。当時16歳だった僕は、聴いてはいけないものを聴いてしまった。そんな感覚でした。キャパオーバーというやつです。デビュー作『ゆでめん』の1曲目は「春よ来い」ですが、25年経っても僕の1曲目は「かくれんぼ」なんです。
2. はいからはくち
シャッフル版のシングルバージョンや数々のライヴテイク、それの発展型といえるアルバムバージョン。一粒で何度もおいしい「はいからはくち」ですが、1973年の解散コンサートでついにファンク化。はっぴいえんどとキャラメル・ママが同居する貴重な記録。デビューからわずか3年で、演奏はすでに熟練の域というこの事実。未収録の「田舎道」を含め、3部構成だったこの日のコンプリートボックスがいつかリリースされる日を夢見ています。
3. 抱きしめたい
僕がマネージャーに就くずっと前、デビュー間もない頃のラリーパパ&カーネギーママはライヴで「抱きしめたい」を歌っていました。僕が観たのは2002年8月だったと記憶しています。ずいぶんとアレンジを加えて彼らなりの解釈で演奏していました。例えるなら、69年のビートルズと75年のザ・バンドを足して2で割ったような演奏でした。10代の頃に出会った70年代の音楽、それははっぴいえんどであり、ザ・バンドであり、リトル・フィートであり、ジェイムス・テイラーであり。それらが時空を超えてやって来たような感覚と手応え。自分が聴いてきた音楽の過去と現在がつながったわけです。数年前、このときの演奏ではありませんが「抱きしめたい」を演奏するラリーパパの映像を発掘することができました。いずれ何かのタイミングで公開できればと密かに企んでいます。