7月15日(火)第4回「馬と戯れる - Wild Horses」


 

朝6時、僕はロジャーの墓に手を合わせ牧場を散歩した。

 

今日で三度目の朝を迎えるが、毎朝このパターンで一日が始まる。今朝はやけに肌寒く、Tシャツ短パンの服装で牧場を散策している僕の体は冷えきっていた。散歩を終えた僕は、家の裏にあるウッドデッキのソファーに腰掛けてサウス・ルイスの牧草地を暫くぼんやり眺めていると「おはようキム、今朝は冷えるな」とダイニングからザックがコーヒーを持って来てくれた。

「おはようザック、コーヒーありがとう!ところでジャッキーは?」と尋ねると、「ジャッキーは今朝早く仕事に出掛けたよ」とザックが答えてくれた。

 

ジャッキーはカウンセラーの仕事をしていて、そういえば僕の滞在中仕事に出掛ける時もあると言ってたな。となるとザックと2人で"カンフー映画祭"かと今日の予想をしていると、僕の予想を裏切り、ザックが「これから馬に水をやりに厩舎に行こう」と言い出した。

 

コーヒーを持ったまま僕らは3頭の馬とロバがいる、母屋から少し離れた厩舎に向かった。着いてすぐ厩舎にある水道の蛇口をひねってザックが水飲み場に水を入れると、3頭の馬とロバが僕らの側まで近寄ってきた。

「このパトリオットは昔、競走馬だったんだよ」

 

ザックが栗毛の老馬を僕に紹介してくれた。ジャッキーの牧場はその昔、競走馬を育てていたらしく、調教も兼ねてかトラックコースもある広大な牧場で、ジャッキーもたまに乗馬に興じることがあるとザックが教えてくれた。確かにザックが指差すフェンスまで敷地内だとすると、余裕で何頭もの馬を飼って競走馬に育てることができる。僕は何故か、馬に乗って大はしゃぎするロジャーを想像して顔がほころんでしまった。

 

ある程度水を飲んだ馬たちは各々厩舎に入り、「じゃあ俺たちも入ろうか」とザックが僕を厩舎内に案内してくれた。

中に入ると、ちょうど小部屋の中で、あらゆる乗馬道具が整然と並べられていた。拍車の着いたブーツやヘルメット、馬の鞍や蹄に着ける蹄鉄まであった。

 

「どうだい、今から乗ってみるか?」と言ってくれたのは有難いが、如何せんヘタレな僕は丁重にお断りしてしまった。するとザックが「そうか、じゃあリビングに戻ってDVDでも見ようか」。やはり予想していた通り、カンフー映画祭となった

 

何本かカンフー映画を鑑賞したあと、僕は外に出て近くを散歩した。しばらく歩いていると近所の牧場に星条旗が高々と掲げられていた。風と鳥の囀りに合わす様に靡くその星条旗は、見ている僕にまだアメリカに居ることを意識させてくれる、何だか道標の様に見えた。

 

まだまだ僕はこのタルサに居られると思うと幸せな気持ちでいっぱいになった。


Road To Tulsa Photo Gallery Vol.4