―ジェシ・デイヴィス、ザ・バンドとの出会い

 

ロサンゼルス時代、ロジャー・ティリソンは一時期だがザ・バンドのリヴォン・ヘルムやボビー・キーズ、ジェシ・エド・デイヴィス、ジミー・マーカム、チャック・ブラックウェルらと共にハリウッドのクラブで演奏していたことがあった。これが伝説のジミー・マーカム・タルサ・レヴューである。1969年にはリヴォン・ヘルムに誘われるままウッドストックに移り住み、2年間を過ごす。ウッドストックでは小さなクラブで弾き語りのステージをしていたそうだが、時にはリチャード・マニュエルやリヴォン・ヘルム、ガース・ハドソンらザ・バンドのメンバーが飛び入りし、一緒に演奏することもあったというから、なんとも夢のようだ。そして盟友ジェシ・デイヴィスとの出会いは、レオン・ラッセルの自宅だったと語っている。

 

ジェシと初めて会ったのは、レオンの家だった。彼の家はオクラホマ出身者の溜まり場だったからね。ジェシとはすぐに仲良くなったよ。しばらくのあいだ、一緒に住んでいたし、オクラホマに戻っていたときもロートンのギャラリーってクラブで一緒にプレイしていた。1年半くらいかな。「トラックス・オブ・マイ・ティアーズ」とか「ラヴィング・ユー・イズ・スウィーター・ザン・エヴァー」や私の「ロックンロール・ジプシーズ」も一緒にやっていた。あるとき、ジェシとふたりで思い立って"カリフォルニアへ行こう!ハリウッドで2週間ほど遊んで、またロートンに戻ってきて、ライヴをやろう!"って、買ったばかりのポンティアックGTOでカリフォルニアへ向かったんだ。途中のアリゾナでハイウェイ・パトロールに止められて、職務質問された。妙な風体の若者がピカピカの新車に乗ってるもんだから、不審に思うよね。

 

そんなこともあったし、ある町のモーテルに泊まったときは、テレビでビートルズのシェイ・スタジアムでのコンサート中継をやってて、ふたりで釘付けになって観たよ。楽しい道中だった。ジェシはすごくいいやつだったよ。偉大なギタリストで、完全主義者だった。ただ、運が悪かったんだな。(レコード・コレクターズ2003年5月号『ロジャー・ティリソン・インタビュー』より)


 

―スワンプ・ロックの傑作が誕生

 

「アトランティック・レコードでアルバムを作らないか?」

 

ある日、ウッドストックのロジャーのもとに、ロサンゼルスのジェシ・デイヴィスから一本の電話が入った。その電話のあとすぐロサンゼルスに飛んだロジャーは、ジェシ・デイヴィスのプロデュースの下、初のソロ・アルバム『ロジャー・ティリソンズ・アルバム』のレコーディングに取りかかる。レコーディングに参加したのは、ビリー・リッチ、ジム・ケルトナー、ラリー・ネクテル、サンディ・コニコフ、スタン・セレスト、ドン・プレストンらベテラン勢。アルバムはほぼスタジオ一発録り、実質制作期間2週間で完成した。

 

ほとんどが一発録りだった。そのほうがダイナミズムが出るからね。ジェシはとてもいいプロデューサーだったよ。仕事もテキパキと早いし。私が彼に曲を聴かせると、彼がミュージシャンを集めて"せいのーっ!"で一緒に演奏するんだ。みんないいプレイをしてくれた。

(レコード・コレクターズ2003年5月号『ロジャー・ティリソン・インタビュー』より)

 

オリジナル曲をはじめ、ボブ・ディランの「ダウン・イン・ザ・フラッド」やザ・バンドの「ゲット・アップ・ジェイク」、ウディ・ガスリーの「オールド・クラックト・ルッキング・グラス」、ドン・ニックスの「ヤズー・シティ・ジェイル」、フォー・トップスの「ラヴィング・ユー・イズ・スウィーター・ザン・エヴァー」などのカバー曲を含め、全11曲が収録されている。

 

「ゲット・アップ・ジェイク」は多分、どこかでデモ・テープを聴いたのか、リック・ダンコが聴かせてくれたのか、どっちかだと思う。彼ともよくつるんでいたからね。ザ・バンドのみんなとは友だちだった。特にリヴォンとは親しかった。同じアパートで住んでいたから、ボビー・キーズと3人でよく風呂場で演奏したものさ。いい音がするからね(笑)。ドン・ニックスは「ヤズー・シティ・ジェイル」を持ってメンフィスからLAまで飛んできてくれたんだ。私はスタジオのトイレでその曲を覚えてから、レコーディングしたんだ(笑)。この頃はザ・バンドの音楽に強く共感していたから、レコーディングでもザ・バンドの影響は大きかった。

(レコード・コレクターズ2003年5月号『ロジャー・ティリソン・インタビュー』より)

 

ジェシ・デイヴィスの多彩でダイナミックなプロダクション、腕利きミュージシャンらの力強い演奏、素朴ながら強烈な存在感を放つロジャーの歌声。そして無骨な南部男を捉えたモノクロのジャケット。まさにスワンプ・ロックの名盤と呼ぶに相応しい内容だったが、本国アメリカでは話題になることなく、セールスも低調なものに終わってしまった。しかしながら日本では1977年に「名盤復活シリーズ」で国内盤LPがリリース、さらに1998年には「名盤探検隊シリーズ」で世界初CD化が実現した。日本のスワンプ・ロック/SSWファンのあいだで長きに渡って愛されてきたアルバムだ。そして今年2月に再びリイシューが決定している。「オールド・クラックト・ルッキング・グラス」と「ゲット・アップ・ジェイク」のモノ・シングル・バージョンが追加収録される予定なので、ファンは押さえておきたいところ。

 

 

―LAから故郷オクラホマへ

 

自信を持ってリリースした初のソロ・アルバムが正当な評価を受けなかったことに失望、退廃的なロサンゼルスの生活やミュージック・ビジネスの駆け引きにも嫌気がさし、故郷のオクラホマに戻ったロジャーは政府の行政機関で仕事をしたり、グラフィック・アートの仕事をするようになる。しかし、その間も音楽への情熱は消えることなく、曲作りは続けていて、J.J.ケールが「レッツ・ゴー・トゥ・タヒチ」(79年)や「ワン・ステップ・アヘッド・オブ・ザ・ブルース」(82年)などのロジャー作品をレコーディングしている。ちなみに1983年にリリースされたJ.J.ケールのアルバム『#8』のカバー・コンセプトは、ロジャーのアイデアによるものだ。その後、J.J.ケールとの交流はその後も続き、2002年にはサンタフェでのライヴで共演してもいる。

 

そして空白と思われていた90年代、ロジャーはタルサで仲間たちとじっくり音楽制作を続けていた。

 

 

(第3章「復活したタルサ産レイドバック・サウンド」へ続く)

 

 

 

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ROGER TILLISON − Roger Tillison's Album

ATCO Records ● SD-33-355 [1971]

<Side-A>

A1  Down In The Flood(B.Dylan)

A2  Old Cracked Looking Glass(W.Guthrie

A3  Good Time Gal(R.Tillison

A4  Just Before The Break Of Day(R.Tillison

A5  Yazoo City Jail(D.Nix

 

<Side-B>

B1  Let'Em Roll Johnny(R.Tillison

B2  One Good Friend(R.Tillison

B3  Lonesome Louie(R.Tillison

B4  Old Santa Fe(R.Tillison

B5  Get Up Jake(R.Robertson

B6  Loving You Is Sweeter Than Ever(S.Wonder

 

 

---Credits---

Vocals, Acoustic Guitar - Roger Tillison

Backing Vocals - Don Preston (A2), Joey Cooper

Banjo, Acoustic Guitar, Electric Guitar - Jesse Ed Davis

Bass Guitar - Billy Rich

Drums - Jim Keltner

Fiddle - Bobby Bruce

Harmonica, Organ, Keyboards - Larry Knechtel

Percussion - Sandy Konikoff

Piano - Stan Szelest

Produced by Jesse Ed Davis