―ナッシュヴィルじゃロック過ぎると言われ、LAじゃカントリー過ぎると言われた
1993年頃からロジャー・ティリソンはタルサのベテラン・ミュージシャン/プロデューサーのウォルト・リッチモンド(トラクターズ)の協力のもと、新曲を書いたりデモ・レコーディングを始めていた。また、オクラホマ出身のフォーク・ヒーローであるウディ・ガスリーを称える『ウディ・ガスリー・フォーク・フェスティヴァル』にも2回(1993年と2002年)出演している。1971年のファースト・アルバムで「オールド・クラックト・ルッキング・グラス」を吹き込んでいるほど、ロジャーはウディ・ガスリーから大きな影響を受けている。2004年には彼の作品を歌った弾き語りの自主制作限定ミニ・アルバム『ソングス・フォー・ウディ』をリリースしていた。
音楽活動の休止から再開について、ロジャーはこう語る。
ファースト・アルバムを出したあと、即席バンドを組んで、南カリフォルニアやデンヴァーでライヴをやったりしたんだけどね。いろいろあって…ミュージック・ビジネスから離れることを決意して、ロートンに戻って4〜5年間、地元の行政機関で働いて、その後タルサでグラフィック・アートの仕事をしていた。曲も書いていて、J.J.ケールが何曲か吹き込んでくれた。ナッシュヴィルで曲作りとかしたこともあるけど、ナッシュヴィルじゃ"ロックンロール過ぎる!"と言われ、ロサンゼルスじゃ"カントリー過ぎる!"って言われてね。
その後、トラクターズのウォルト・リッチモンドと曲を作ったり、デモ制作を始めたんだ。で、そろそろアルバムを作ろうかということになってね。毎週日曜日にウォルトのスタジオでレコーディングしたんだ。ピースフルな雰囲気でね。タルサのベスト・ミュージシャンたちも手伝ってくれてね。とてもいいアルバムができたと思うよ。
(レコード・コレクターズ2003年5月号『ロジャー・ティリソン・インタビュー』より)
―32年ぶりのソロ・アルバム『マンブル・ジャンブル』
タルサの仲間たちに囲まれて制作したアルバムこそが『マンブル・ジャンブル』である。1971年のファースト・アルバムを愛する誰もが、いつの日か、ロジャーの新作が届けられるのではないかと期待していたはずだ。実に32年ぶりのセカンド・アルバムは、2003年4月19日にドリームズヴィル・レコードからリリースされた。アルバムについて詳しく記していこう。
ROGER TILLISON − Mamble Jamble
dreamsville records ● YDCD-0094 [2003]
01. ホット・マンブル・ジャンブル - Hot Mamble Jamble
02. ジャマイカ・ラン - Jamaica Run
03. スウィート・リトル・シング - Sweet Little Thing
04. ワン・ナイト・スタンド - One Night Stand
05. トゥー・ステップ・ブルー・ステップ - Two Step Blue Step
06. チェンジ・チェンジ - Change, Change
07. ジュークボックス・ポエット - Jukebox Poet
08. コーリング・オン・ユー - Calling On You
09. サウスウェスト・ウィンド - Southwest Wind
10. ポニー・ブルース - Pony Blues
11. ロックンロール・ジプシーズ - Rock'n Roll Gypsies
レコーディングが行なわれたのは、先のロジャーのインタビューにもあるように、タルサにあるウォルト・リッチモンドのスタジオ。プロデューサーで、ピアノ、オルガン、ドラムを演奏しているウォルトは元トラクターズの中心人物。ボニー・レイットやリック・ダンコのバンドでプレイしてきたベテラン。リック・ダンコの初来日公演でキーボードを弾いていたのは彼である。そしてボニー・レイットとは「キャント・ゲット・イナフ」(82年のアルバム『グリーン・ライト』収録)を共作、他にもマリア・マルダーやドゥービー・ブラザーズにも曲を書いている。ウォルトもロジャーと同じくチェロキー・インディアンの血を受け継いでいる。
参加ミュージシャンは、ケイシー・ヴァン・ビーク(ベース)、ジム・バイフィールド(ギター)、スティーヴ・プライアー(ギター、ドブロギター、ペダルスティール)、スティーヴ・ヒッカーソン(ギター)、ジュニア・マーカム(ハーモニカ)らいずれもタルサで活躍する腕利きのベテラン・ミュージシャン。ヴァン・ビークは元トラクターズのメンバー。ロッキン・ジミーことジム・バイフィールドは、エリック・クラプトンも75年のアルバム『安息の地を求めて』でレコーディングしている「リトル・レイチェル」の作者。彼自身も昔、ヨーロッパで「リトル・レイチェル」をヒットさせている。
スティーヴ・プライアーは1993年頃に、ピート・アンダーソンのプロデュースでデビュー・アルバムをリリースしたことのあるスティーヴ・プライアー・バンドのリーダー。このアルバムでは彼のペダルスティールやドブロが大活躍している。「トゥー・ステップ・ブルー・ステップ」でのソロがカッコいいスティーヴ・ヒッカーソンもまたトラクターズやロッキン・ジミーらのアルバムに参加してきたギタリストだ。ジュニア・マーカムことジミー・マーカムは第1章で触れたように、タルサ・ミュージック・シーンの顔役。なお「チェンジ・チェンジ」のトランペットはロジャー本人が吹いている。
―タルサはレイドバック・ミュージックで有名だからね
収録された11曲中、チャーリー・パットンやサン・ハウスで知られるトラディショナル・フォーク・ブルース「ポニー・ブルース」を除く10曲がロジャーのオリジナル。「ロックンロール・ジプシーズ」は2003年2月、日本盤用に新たにレコーディングされたもの。ジェシ・デイヴィスの強烈なヴァージョンでお馴染みだが、実直さが滲み出た作者本人の歌声で聴くのもまた格別。オリジナルの歌詞に戻して歌われている。
南部のカントリー・ブルース、フォーク、カントリーに根ざした独特の作風は相変わらず。野趣溢れる歌声が多少穏やかになったのは、あれから倍以上、年を重ねたわけだから、当然だろう。ザ・バンドのサウンドに多大な影響を受けていた前作に比べ、肩の力が程よい感じに抜け、シンプルに軽やかになったというのが全体の印象。J.J.ケールみたいだと言う人もいるだろう。朴訥としていて、温かみのある歌声も共通するところではある。
新作『マンブル・ジャンブル』を一言で表現すると?という質問にこう答えている。
ひとつにカテゴライズするのは難しいかな。強いて言えば、レイドバック・サウンド。タルサはレイドバック・ミュージックで有名だからね。 イージー・ゴーイングだけど、本物のロックンロールさ。 ほかの何物でもない。ロカビリー、ちょっぴりリズム&ブルース、それにポップ・サウンド少々ってところかな。
(レコード・コレクターズ2003年5月号『ロジャー・ティリソン・インタビュー』より)
そしてこのアルバムのリリースから2ヵ月後の2003年6月、ロジャー・ティリソンがついに日本にやって来た。ツアーのバックバンドとして白羽の矢が立ったのが、ラリーパパ&カーネギーママだった。
(第4章へ続く)
2003年リリース時のフライヤー(dreamsville records)
1975年生まれの僕は、ファーストも、32年ぶりになるこのセカンドも、並列で、タイムラグを感じることなく聴けてしまいます。最近、いろんな大御所と呼ばれる人達が最新盤をリリースするのが目立ちます。なかにはすごくガッカリさせられてしまうこともしばしばです。ロジャー・ティリソン!60を越えてこのギラギラした男臭さは感服するばかりか、時間の経過をまったく感じさせない、まさにセカンドアルバムです。−チョウ・ヒョンレ(2003年時)