2004年11月14日、オクラホマ州タルサのラジオ局、KOSUの番組『レッド・ダート・レディオ・アワー』でロジャー・ティリソンの「コーリン・オン・ユー」が流れていた。そのあとにラリーパパ&カーネギーママの「夏の夜の出来事」、そしてJ.J.ケールの「ストーン・リヴァー」の3曲が続けて流れた。
「オーライ! J.J.ケールの<ストーン・リバー>をお送りしたよ!」
「いやー、グレイトな歌だね!ロジャーもそう思うよね!」
「ああ、いい歌だ」
2人のDJと一緒にしゃべっているのはロジャー・ティリソンだった。訥々と相変わらずの調子で話すロジャー・ティリソンがいる。2004年11月、ジャパンツアーを終えて1年と少し。ラリーパパはバナナホールで公開録音によるワンマンライヴを行なったあとだった。その模様はこの年の9月に『ライヴ』としてリリースされている。この番組で流れた「夏の夜の出来事」は『ライヴ』からの音源だった。地元のラジオ番組に出演したロジャー・ティリソンは、タルサどころかアメリカ全土でもおそらくほとんど誰も耳にしたことがないであろう、ラリーパパの曲を選曲していた。深い愛に満ちた紹介を添えて。
「ロジャー、2曲目について教えてほしいんだけど」
「これってザ・バンドの<オールド・ディキシー・ダウン>だよね?」
「彼らは日本のバンドなんだ。ラリーパパ&カーネギーママというんだよ」
「え、なに?ラリッパパ!?(笑)面白いバンド名だね!」
「私の大切な友人でもあるんだ。また一緒にやりたいと思ってる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
番組の後半はアコースティック・ギター弾き語りによるスタジオライヴだった。「ワン・グッド・フレンド」「ニューヨーク・タウン」「ホット・マンブル・ジャンブル」の3曲。2004年といえばロジャーがウディ・ガスリーのカバーアルバム『ソングス・フォー・ウディ』を自主制作でリリースした頃でもあり、「ニューヨーク・タウン」はこのカバーアルバムの1曲目に収録されている。ちなみにこの3曲はジャパンツアーで必ず演奏していた楽曲でもある。
2004年以降は目立った音楽活動をしていなかったのか、日本にロジャー・ティリソンの名前が届くことはほとんどなかった。来日公演から10年の月日が流れた2013年12月6日午後6時30分、ロジャー・ティリソンは家族に看取られながら静かに息を引き取った。享年72。肝臓がんだったという。彼の訃報はSNSなどを通じて瞬く間に世界中に発信され、多くのファンが悲しみに包まれた。
2014年7月12日。日本からアメリカへ渡る男がいた。男はかつてロジャー・ティリソンから「まるでジェシ・エド・デイヴィスのようだ」と称されたことがある。男の名はキム・ガンホ。ラリーパパ&カーネギーママのギタリストである。ロジャー・ティリソンのお墓参りをするため、バンドを代表して単身渡米。ガンホがタルサ国際空港に到着したのは、どっぷりと日が暮れた午後7時30分頃だった。路肩に停まっている車からガンホの名前を呼ぶ女性がいた。
「キム?」
「ジャッキー!?ハーイ!ジャッキー!!」
ロジャー・ティリソンの奥さんであるジャッキーが空港まで迎えに来てくれていた。ガンホは嬉しさと安堵感から膝から崩れ落ちそうになりながらも、10年ぶりの再会を喜び合いハグをした。話したいこと伝えたいことが山ほどある。大丈夫、時間はたくさんある。ガンホが助手席に腰を下ろしたのを確認すると、彼女はゆっくりと車を走らせた。約束の場所へ向かって。
路上 ON THE ROAD
ホームに靄が立ち込め
列車が朝を運ぶ
座席に深く沈んだら
風景が流れ出す
俺は大地をひた走る
火花を散らしながら
寝ぼけた影を切り取り
鮮やかな朝を運ぶ
レールはまっすぐ約束の場所へ
お前に今すぐ会いに行こう
時速200キロじゃ、先はまだ長い
まるでこの頃じゃ、忙し過ぎる
次の分岐路じゃ、お前のいる方へ
そこの角まで一緒に歩こう
旅の途中で見知らぬ同士
話す言葉は違うけど
同じ歌、口ずさんでた
お前に会いたい 少しでもいいから
一緒に歌おう 懐かしいあの歌を
最後に交わした言葉はジョークで
笑い合い見上げた空は青くて
黒い瞳いっぱいに
青い空、映してみても
お前に会いたい 少しでもいいから
旅に出るのさ お前の跡を探して
お前に会いたい 少しでもいいから
旅に出るのさ お前の跡を探して
お前と演りたい 少しでもいいから
作詞・作曲:チョウ・ヒョンレ
演奏:ラリーパパ&カーネギーママ
ROGER TILLISON - Mamble Jamble
dreamsville records ● YDCD-0094 [2003]
1. Hot Mamble Jamble 2. Jamaica Run 3. Sweet Little Thing 4. One Night Stand 5. Two Step Blue Step
6. Change, Change 7. Jukebox Poet 8. Callin' On You 9. Southwest Wind 10. Pony Blues
11. Rock'n Roll Gypsies [Bonus Track]
J.J. CALE - To Tulsa And Back
Sanctuary Records ● 06076-84687-2 [2004]
1. My Gal 2. Chains Of Love 3. New Lover 4. One Step 5. Stone River 6. The Problem 7. Homeless
8. Fancy Dancer 9. Rio 10. These Blues 11. Motormouth 12. Blues For Mama 13. Another Song
ラリーパパ&カーネギーママ - LIVE
citymusic, QUBE ● Qbix-10 [2004]
1. 冬の日の情景 2. 陽の昇る方へ 3. 終わりの季節に 4. 風来渡 5. 風に乗って 6. 道々 7. あの空は夏の中
8. 枯葉のブルース 9. まちとまち 10. どこへ行こう 11. 夏の夜の出来事 12. 心象スケッチ
13. 夢を見ないかい? 14. ラストショウ
ROGER TILLISON - Songs For Woody
Songdog Musicgroup ● none [2004]
1. New York Town 2. Pretty Boy Floyd 3. No More Cane On The Brazos 4. One Step Ahead Of The Blues
5. Buffalo Skinners 6. One Good Friend