= DISC REVIEW =
フォーク、ソウル、ファンク、ワールドミュージックが渾然一体。
唯一無二の世界観を描く水田十夢、待望のソロデビュー。
構想は10年以上前からあったという水田十夢のソロアルバム制作。僕は4年くらい前にいつかソロアルバムを出したいと相談されたことがあった。本隊のラリーパパはもとより、他のサポートやユニット、さらにグラフィックデザイナーとして日々多忙を極める十夢にソロアルバムを作る時間など一体どこにあるのだろうか。構想から10年かかったのもうなづける。しかし、いよいよアルバムに先駆けてシングルが完成したのだ。
シングルの詳細に触れる前に水田十夢のプロフィールを簡単に紹介しよう。1977年4月17日、神戸生まれ。ラリーパパ&カーネギーママのベーシストとしてその音楽キャリアを本格化させていく。ラリーパパの初代ベーシストである森本夏子が脱退しbonobosへ、十夢がベーシストとして加入したのは2001年5月のことだった。その後、第一期ラリーパパ解散後は2007年5月にソニックユースケと道券慎太郎とともにTOCHIKA(トーチカ)を結成。TOCHIKAではボーカルも担当している。公私ともにパートナーである増家真美のサポートなど、この頃から様々なミュージシャンのサポートも精力的に行なっている。同時にグラフィックデザイナーとしても頭角を現し始める。音楽とデザイン、現在のスタンスを築いたのはこの時期からといえるだろう。
持ち前の人懐っこさとエキセントリックなベースプレイで様々なミュージシャンのサポートをしてきた。今回の「紙ひこうき」はそんな繋がりを物語ってもいる。レーベルメイトのキム・ガンホ&大間知潤、良元優作のバックバンドでリズム隊のコンビを組んだ仲井信太朗、他にも堀清人、SEN、増家真美&一虹&穂歌の水田ファミリー。中でもひと際存在感を放っているのが山村誠一だろう。スティールパン、コンガ、テナーサックス、ギロと大活躍だ。レコーディングはラリーパパやスチョリの新作でもおなじみのアルケミー・スタジオで行われている。初のソロ作品はフォークを基盤にしながらもソウル、ファンク、さらにワールドミュージックをも取り込んでワン&オンリーな世界を描いている。
1. 紙ひこうき
大間知潤の誠実かつ豊潤なマンドリンが印象的なイントロ、朴訥とした十夢のボーカルがそこに乗る。言葉選びと作風は初期の細野晴臣を想起せずにいられない。フォーキーな楽曲で終わるかと思いきや、エンディングはガンホのギターが炸裂する。トラッドフォークからプログレ的展開、あるいはグレイトフル・デッド的展開とも言える。さらに分厚いコーラスはゴスペルのニュアンスも感じられる。
2. 君は陽炎
2006年までのいわゆる初期ラリーパパ&カーネギーママ時代に、十夢が書いた唯一のオリジナル曲。とはいえライヴではたった一回の演奏のみで、音源もオフィシャルブートレグ『レア・トラック・シリーズ グッド・タイムズ・ロール vol.2』にインストバージョンが残されているのみ。つまりほぼ未発表だった楽曲が10数年の時を経て、作者本人の歌で日の目を浴びたことになる。ドスの効いたガンホのスライドギターが存在感を放つが、土台はメロウグルーヴ。70年代半ば〜後半のシティポップスを下敷きにしながらも、山村誠一のスティールパンとテナーサックスがエキゾチックな世界へ誘ってくれる。ちなみにラリーパパが当時のライヴで演奏したのは2005年8月5日の自主企画イベント「グッド・タイムズ・ロール vol.2 #2 〜風の丘〜」でのこと。ボーカルはスチョリ、場所は梅田レインドッグス。
3. 〜蜃気楼 session〜
ダニー・ハサウェイの「ザ・ゲットー」よろしく、タイトル通りのセッションがエンドレスで続いていく。参加メンバーのソロ回しも素晴らしく、中でも十夢本人のベースプレイは特筆すべきだ。チャック・レイニーか、はたまたゴードン・エドワーズか。黒いプレイが冴え渡る。ミーターズ「ルッカ・パイ・パイ」、ラリーパパ&カーネギーママ「まちとまち」の隠し味もニクい。
(TEXT by 柳本篤)
紙ひこうき - 水田十夢
1. 紙ひこうき
2. 君は陽炎
Bonus Track
3. 〜 蜃気楼 session 〜
All Lyrics & Songs Written by 水田十夢
Recorded & Mixed by 北畑俊明 at Alchemy Studio
Mastered by 福岡直子 at Alchemy Studio
Art Work by 村上絢子
Inner Photo by 島田勇子
Design & Cover Photo by 水田十夢
Management by 柳本篤
紙ひこうき
水田十夢:Vocal, Wood Bass
<参加ミュージシャン>
山村誠一:Steel Pan, Conga, Guiro
キム・ガンホ:Electric Guitar
大間知潤:Mandolin, Chorus
堀清人:Grand Piano, Keyboard
仲井信太朗:Drums
SEN:Chorus
増家真美:Chorus
水田一虹:Chorus
水田穂歌:Chorus
君は陽炎
水田十夢:Vocal, Electric Bass, Cuica
<参加ミュージシャン>
山村誠一:Steel Pan, Conga, Tenor Sax
キム・ガンホ:Electric Guitar
大間知潤:Mandolin, Acoustic Guitar, Chorus
堀清人:Fender Rhodes Piano
仲井信太朗:Drums
SEN:Chorus, Hand Clap
増家真美:Chorus, Hand Clap
水田一虹:Chorus, Hand Clap
水田穂歌:Chorus, Hand Clap